vol.14 知っておきたい矯正歯科の選び方:トレンドウォッチ:本会の活動・ニュース|質の高い矯正治療と安心の提供に努める矯正歯科専門の開業医団体「日本臨床矯正歯科医会」

vol.14 知っておきたい矯正歯科の選び方

いま知っておきたい矯正歯科の選び方

いま知っておきたい矯正歯科の選び方

ひとくちに矯正歯科といっても、その中身はいろいろ

■コンビニより多い歯科、でもよく見ていくと…
日本には昔から歯科医院が多く、最近では「コンビニよりも多い」などといわれています。調べてみると、歯科医院の数が6万8,756軒(※1)なのに対し、コンビニは約5万3,182軒(※2)。年々コンビニの数が増え、その差が縮まってきているとはいえ、歯科医院のほうが多いのは事実のよう。
全国の歯科医院とコンビニの軒数(2015年10月)
全国の歯科医院とコンビニの軒数
しかし、ひとくちに歯科医院といっても、その中身はいろいろです。
医科の診療科目に内科、外科、小児科、婦人科、胃腸科、整形外科などがあるように、歯科にも「歯科」「小児歯科」「矯正歯科」「歯科口腔外科」の4つが看板に掲げてよい診療科目となっているのです。
この4つの中でもっとも多いのが、むし歯や歯周病などの治療を行う「歯科」。次いで成長期の子どもを対象とする「小児歯科」。そして、のう胞や腫瘍といった口の中のできものを取り除いたり難しい親知らずなどの抜歯を行ったりする「歯科口腔外科」、「矯正歯科」となっています。
歯科医院の内訳
歯科医院の数
※1 2015年10月厚生労働省「医療施設動態調査」より
※2 2015年10月日本フランチャイズチェーン協会「コンビニエンスストア統計調査月報」より

■どんな資格? 矯正歯科の認定医と専門医
矯正歯科の認定医と専門医 このように歯科の中ではもっとも少ない矯正歯科ですが、矯正歯科治療を行うすべての歯科が治療経験豊富な”スペシャリスト”なのかというと……、実はそうともいえないよう。
というのも、日本には矯正歯科治療の熟練度を示す指標として、「認定医」「専門医」という認定資格があるのですが、取得者は、認定医が約3,044人、専門医が約309人と、総数に対してまだかなり少ないのが現実なのです(※3)。

日本矯正歯科学会認定医ちなみに、この認定医と専門医は、日本矯正歯科学会(日本の矯正歯科界を代表する学術団体/会員数6,400人)が矯正歯科医を選ぶ基準を患者さんに提供するために設けたもの。
認定医になるには、歯科医師のライセンス取得後に継続して5年以上の臨床研修を積むことや、学術刊行物に矯正歯科臨床に関する報告を発表することなどの条件が課せられています。また、資格をとった後も5年ごとに資格審査を受けなければならないなど、厳しいものとなっています。

日本矯正歯科学会専門医一方、専門医とは認定医の中で特別に技術と経験が優秀である歯科医に与えられる認定資格。専門医になるためには日本矯正歯科学会認定医資格をもち、10年以上の臨床研修が必要となるほか、学会の定めた10種類の課題症例を自分で治療し、そのすべての治療結果が学会の定めた基準を満たして合格しなければなりません。
専門医の資格認定は2006年からスタートしており、取得するには高い技術レベルと豊富な経験、高い専門知識が求められるため、経験豊富な歯科医でも取得は簡単ではないといわれています。

このように知識を備えていくと、矯正歯科にも違いがあることがわかってきますね。
認定医や専門医は日本矯正歯科学会のホームページから探すことができるので、これからの治療先選びに、ぜひ活用してください。
※3 日本矯正歯科学会ホームページより
★次のページでは、〈矯正歯科専門医院ならではのこだわり〉についてご紹介!

歯科の看板、どう見分ける?

■診療科目の多さは治療レベルとは無関係
前のページでは、矯正歯科の中身はさまざまであること、選ぶ基準のひとつが認定医や専門医の資格であることなどをお伝えしました。
では、診療の形態からのチェックポイントはないのでしょうか?
最近よく見かけるのが、「○△歯科 矯正歯科 小児歯科」など複数の診療科目が書かれた歯科医院の看板。一見すると、「むし歯の治療も矯正歯科治療も同じところでできるなら便利だし、それだけ幅広い技術力をもっている先生がいる証拠では?」などと捉えがちですが、これもまた一概にそうともいえないようです。
というのも、日本では歯科医師免許があれば、たとえ専門分野の教育や研修の経歴にかかわりなく、その治療を行うことができるからです。極端な話、矯正歯科治療の経験がなくても、歯科の診療科目に矯正歯科と書いてもよいということ。ここからわかるのは、標榜自体は治療のレベルまであらわすものではないということです。
それを頭に入れたうえで、矯正歯科治療も行う一般歯科と、矯正歯科専門医院の違いを見ていきましょう。
■矯正歯科医が常勤する歯科医院がおすすめ
一般歯科とは文字どおり、むし歯や歯周病などの一般歯科治療を手がける診療所を指します。そこで行われる矯正歯科治療は、院長みずからが一般歯科治療をするかたわら行う場合や、決まった日時に大学病院などから矯正歯科医が来て治療する場合などがあります。もちろん、矯正歯科を専門とする歯科医が常駐している一般歯科もありますが、それほど数は多くないのが現実です。
矯正歯科専門医院一方、矯正歯科専門医院とは、専門知識と診療技術を有する歯科医が矯正歯科治療だけを行っている診療所のこと。これらの専門医院には矯正歯科治療に特化している歯科医がいて、一人ひとり異なる咬み合わせの状態に適した治療法を選択できることから、症例数は矯正歯科治療を行う一般歯科医院より10倍ほど多いといわれています。
東京都内で開業する矯正歯科専門医院の院長、三村 博先生は、両者の違いについて次のように話します。

「ひとつには、治療を担当する矯正歯科医が常勤か非常勤かの違いがあります。矯正治療に特化した歯科医院は、基本的に矯正歯科医が常勤しています。つまり、同じ担当医による一貫した治療が受けられるということです。一方、大学病院などから決まった日時にだけ矯正歯科医が来る場合は、治療日数が限られており、治療の途中で担当医が変わったり、緊急時の対応ができなかったりすることもあり得ますね」
また、診療する環境にも違いがあると指摘します。
「常勤の矯正歯科医がいる診療所だと、画像診断ができる撮影機器などの環境や設備が整っていますが、矯正治療を専門としない医院の場合は、矯正用機器など治療に不可欠な設備が十分に整っていないケースもあるのです」
  
■セファログラムを撮影する検査があるかどうか
 三村先生がいう「矯正歯科治療に不可欠な診断機器」の代表的なものが「セファログラム(頭部X線規格写真)撮影装置」です。
セファログラム撮影装置(左)と、撮影された頭部のX線規格写真。
セファログラム撮影装置(左)と、撮影された頭部のX線規格写真。
セファログラムとは、世界中で共通した撮影方法で、顔面と頭部のX線写真の撮影画像から、分析・診断を正しく下すために必要なもの。上下のあごの大きさとそのズレ、あごのかたち、歯の傾斜角度、口もとのバランスなどが、この撮影からわかります。
「この検査をせずに治療を始めることは、たとえるなら海図も見ずに船を出すのと同じこと。我々、矯正歯科医にとって、セファロ分析なくして本格的な矯正科療を開始することは絶対にありません」
三村先生がそう断言するように、矯正歯科専門医院ではセファログラムを治療前・治療後と経時的に撮影することで骨格の成長の方向や量、歯の移動距離などを把握し、客観的な根拠にもとづいた治療につなげているのです。
「治療前には、セファロ分析の結果をまとめたポリゴン表(A)やプロフィログラム(B)といわれるものも見て、診断の一助にしていきます。治療後に、再度これらを分析(C)して、歯がどのように動いたか、顎骨の変化がどうだったかなどを把握したりして治療の評価を行うこともありますよ」
矯正歯科専門医院では、こうした分析結果を直接患者さんに提示しながら、これからどのように治療していくか、また治療によって歯やあごがどのように変化したかを説明していくのだといいます。
歯科医院の数
「分析の結果を患者さんに丁寧に説明するのは、治療法に納得していただきたいからです。例えば、同じ受け口の治療でも、下あごを後方へ動かすのか、上あごを前方に動かすのか、あるいはその両方が必要となるのかは人によって違ってきます。つまり、受け口といっても治療法は同じではないのです」
受け口や出っ歯の治療に使われるヘッドギアやフェイシャルマスクと呼ばれる装置。適した治療を行うために欠かせないのがセファログラムだとすれば、この撮影を検査に用いて、その分析結果を診断に生かしているかどうかが、その歯科医院の矯正歯科治療への”本気度”を見分けるポイントといえそうです。
このほかにも、矯正歯科専門医院では専用機器を用いたさまざまな精密検査と分析を重視しています。くわしくはトレンドウォッチvol.13をご覧ください。

 
★次のページでは、〈矯正歯科専門医院のスタッフの声Part1〉をご紹介!

矯正歯科のスタッフに聞いてみた-1




Interview
矯正歯科のスタッフに聞いてみた-1治療期間中もすこやかな歯であるように
一人ひとりに応じたケアを実践しています

松川英莉さん(矯正歯科 歯科衛生士/30歳)

■矯正歯科専門医院では、必要に応じてMFTを実践
矯正歯科専門医院の歯科衛生士、松川さんは、かつて1年ほど一般歯科でも歯科衛生士として勤務していたことがあるといいます。一般歯科と矯正歯科での仕事の違いについて、まずはうかがいました。

「私がいた一般歯科では歯周病のケアに関わることが多かったのですが、矯正歯科では歯周病の患者さんがいらしたら、信頼できる一般歯科に紹介してそこで治療をしていただくので、今は歯周病に関わることが減りましたね」


ワイヤーを装着するときなどに使うプライヤー(ペンチ)は、矯正歯科ならではの道具。反対に、矯正歯科に来て増えたのがMFT(口腔筋機能療法※)だといいます。

「MFTというのは、舌や唇など口まわりの筋力バランスをよくするためのトレーニングのことです。例えば、舌で歯を押すクセのある人の場合、舌のクセが治らなければ、いくら治療してもまた歯並びが崩れていってしまうので、治療と平行してMFTを行うことを大切にしています」
※歯並びや咬み合わせの形成に関与する幼少期の生活習慣や癖などの後天的な筋肉の不調和を、舌や唇、頬などの口腔顔面筋のトレーニングをとおして整えていく療法のこと。

無意識のときに口が開いてしまう原因には、咬み合わせのほかに唇の筋力の弱さも考えられ、その場合はMFTをするだけで改善できるのだとか。

「舌で歯を押すクセがあり、唇の筋力も弱いと、どうしても歯は前に押し出されてしまいます。ですから内側からは押さないように、外側からは唇で歯を押さえるようにすると、歯並びが崩れにくいんです。ですから、MFTが必要だと主治医が判断した患者さんには、こうしたことを伝えてきちんと理解してもらうのが、矯正歯科で働く歯科衛生士の役割だと思っています」


■「この方のすこやかな歯並びを一生守りたい」という思い
では、松川さんの目から見て一般歯科と専門医院で行われる矯正歯科治療には、どんな違いがあるのでしょうか。

「矯正治療はただ歯を並べるだけではなく、骨格や歯の角度から咬み合わせを調整したり、成長を予測したうえで治療を行ったりする複雑なものです。その治療を長年続けている医院と、そうではない医院とでは、かなりの差があると思います。それは私たち歯科衛生士の役割の違いを見ても明らかですね」

数年にわたる矯正歯科治療の期間中は、装置をつけていることで、むし歯のリスクも高まるもの。それだけに、矯正歯科で働く歯科衛生士は歯みがき指導を徹底して行い、患者さんのすこやかな歯を守りたいという思いが強いのだといいます。

歯みがきコーナーがある矯正歯科は多い。その脇には装置のついた歯のみがき方の説明があった。
「私をはじめ歯科衛生士全員が、治療中にむし歯は1本もつくらせないという気概で取り組んでいます。もちろん、装置がはずれた後も定期的にメンテナンスに通っていただけるとうれしいですね。矯正治療をした方一人ひとりの歯並びを一生守りたいと思っていますから」

★次のページでは、〈矯正歯科専門医院のスタッフの声 Part2〉をご紹介!

矯正歯科のスタッフに聞いてみた-2




Interview
矯正歯科のスタッフに聞いてみた-2患者さんの数だけ治療法がある。
それが専門医院の奥深さです。

吉里有香さん(矯正歯科 歯科衛生士/28歳)


■専門的な技術を備えているのが矯正歯科の歯科衛生士
「私自身、かつて治療経験があるせいか、矯正に興味がありましたが、最初は幅広く技術を身につけたいと思い、学校卒業後は矯正治療もしている一般歯科に就職しました」

と話す吉里さん。新卒で入ったその歯科医院には7年間在席し、2015年春から矯正歯科専門医院へ。その理由をこう話します。

「かつていた一般歯科では歯科衛生士は器具を用意したり、終わった後の器具を片付けたり消毒したりする程度。もっと矯正治療に関わりたいと思ったのが、転職した理由です。実際、矯正歯科に移ってからは、石膏で模型をつくるための歯型をとる『印象採得(いんしょうさいとく)』や装置の使い方の説明など、歯科衛生士が患者さんと関わることがすごく多くて、そこに驚きと喜びを感じています」

石膏で模型をつくるための歯型をとることだけでも、以前とは全然違うという吉里さん。

石膏で模型をつくるための歯型をとるときに使う専用トレーにも、さまざまな大きさのものがある。「一般歯科では詰めものやかぶせものをつくるところだけ部分的に歯型をとることが多かったのですが、矯正歯科では上唇小帯(じょうしんしょうたい/前歯の中央にあるスジ)や歯茎の奥まで入れて歯列全体をしっかり精密にとるのが基本。それだけ歯列全体と骨を捉えているんだなと感じますね」

■矯正歯科治療は、まさにオーダーメイド
そんな吉里さんが大切しているのが、患者さんとの心の通った交流だといいます。

「治療中は患者さんの協力がなくては進まないことがたくさんあります。例えば、取りはずしのできる装置の場合、1日の決められた時間分の装着がないと思ったように歯が動かず、治療が長引いてしまいます。そんな事態を防ぐためには、患者さんの1日の過ごし方をうかがって、その中から装置をつけられる時間帯を見出していくなど、表面的ではない交流が大切になります。もちろん確実に装置を使ってもらえるよう、つけ方・はずし方の練習なども患者さんと一緒に行っていますよ」

また、低年齢の患者さんには、実際の使い方だけでなく、保護者に”今この装置をなぜ使うのか”をきちんと説明し、理解・納得してもらうことを心掛けているのだとか。

矯正装置に使われる、通称カラーゴム。最近ではあえて装置を見せようとする患者さんも増えてきた。「治療が円滑に進むよう全面的なサポートを行うのが、矯正歯科で働く歯科衛生士の役割です。矯正治療は、患者さんの数だけ治療法があるもの。私たち歯科衛生士も治療についての知識を備えて患者さんと交流することで、よりよい治療の一翼を担っているのだと自負しています」

■信頼できる窓口としての受付業務


「いつもここにいることが、患者さんの安心感につながればうれしいです」矯正歯科には、歯科医、歯科衛生士のほかに受付スタッフがいます(医院によっては歯科技工士を置いているところもあり)。歯科医院の顔となる受付では、患者さんからの電話対応や予約の配置、金銭の授受などがあり、臨機応変な対応が求められます。
矯正歯科で受付を担当する加藤晴香さんは、
「患者さんから質問があったとき、それが専門的な治療内容の場合は主治医や歯科衛生士に確認してから答えています。質問内容によって先生に聞くのがいいのか、歯科衛生士なのかという判断がすぐにつくよう、私自身も必要最低限のことは理解しているつもりです。また、受付スタッフとしては数年にわたる治療期間中、患者さんにとって話しやすい存在でいられるよう、いつも笑顔を心掛けていますね」

患者さんに安心感を与えられるよう、電話に出るときには医院名に続けて自分の名前をいうようにしているという加藤さん。こうした小さな気配りも、治療中の患者さんのモチベーションアップにつながっていそうです。


最近、矯正歯科治療を手がける歯科医院が増えてきているといわれます。しかし、何年、何十年とその道一筋に取り組んできている専門医院には、やはり経験に裏付けられた知識と技術があるのは確か。
特集の最後に、今回の取材を通して見えてきた、矯正歯科の選び方チェックポイントをまとめておきましょう。この記事が、これからの矯正歯科選びのヒントになることを願っています。

★矯正歯科の選び方チェックポイント
1.歯科医の「専門科目」や研修の「経歴」から選ぶ
●日本矯正歯科学会の「認定医」や「専門医」がいる?
 →矯正歯科治療の専門知識と診療技術の資格試験をパスして認定された
  「認定医」(約2500人)、「専門医」(約250人)は信頼性が高い
●診療科目ごとに専門の歯科医がいる?
 →歯科の診療科目は「自由標榜制」。診療科目からだけで判断しない

2.診療所の「形態」から選ぶ
●矯正歯科だけを行っている専門医院?
 →診療の一部として矯正歯科治療を行う「一般歯科」より
  症例数が5~10倍多いとされる「矯正歯科専門医院」が安心

3.歯科医院の「診療形態」から選ぶ
●矯正歯科医が「常勤」している?
 →非常勤の場合は、治療日数が限られ、緊急時の対応ができない場合もある
●セファログラムでの検査はある?
 →矯正歯科治療に不可欠な検査。この検査をせずに治療を始めることはあり得ない