咬み合わせから食育や健康を考えよう
■噛むことは全身の健康に影響する
「咬み合わせと健康」についてのセミナーが開催されたのは、2017年11月16日木曜日。会場であるカンファレンスルームには、定員180名を上回る大勢の人が集まりました。
本セミナーに協賛するのは、矯正歯科の専門開業医である、公益社団法人日本臨床矯正歯科医会(以下、矯正歯科医会)。まずは、同会会長である稲毛滋自先生の講演です。
「咬み合わせから食育や健康を考える」と題して行われた講演の冒頭で、稲毛先生は近年、歯や口の状態が社会生活や全身の健康に影響することが次第にわかってきたと述べたうえで、「口の中の大切な役割」として次の5つを挙げました。
●口の中の大切な役割
1. 食をつかさどる
2. 呼吸をつかさどる
3. コミュニケーションをつかさどる
4. 感覚(味覚・触覚・温度覚)をつかさどる
5. 感染を防ぎ健康を維持する
「このうち、感染を防いで健康を維持するという役割については、まだ意外に知られていませんが、これには”唾液”が大きな働きを担っているのです」と稲毛先生。
唾液には病原性のある細菌を殺菌する作用があり、発がん物質の働きを抑えるなどの有効成分が含まれています。そんな唾液の分泌を高めるには、よく噛むことが重要です。しかし、現代はやわらかい食べ物が多く、噛む回数が少なくなっているといわれています。実際、50年前の10代の平均顔と比べると、昨今の10代の平均顔は細長く変化しているのだとか。
「噛む回数が減ると、どうしてもあごの骨の幅が狭くなり、ほっそりとした顔立ちになります。一方、歯の幅(歯冠幅径/しかんふくけい)は大きくなっているため、デコボコした歯並びになりやすいのです。だからといって急に硬いものを食べても、長い歳月を経て細くなったあごがすぐに逞しくなるわけではありませんが、体の健康を保つためには、毎日の食事をゆっくりと、よく噛んで食べることが大切です」
よく噛むために必要なもの、それが”よい歯並びと、よい咬み合わせ”なのです。
■永久歯が生え揃うまでの咬み合わせを知ろう
では、よい咬み合わせとはどういうものでしょうか?
稲毛先生は、ここでも5つのポイントを揚げて説明します。
●よい咬み合わせの見極めポイント
1. おおらかなU字型の歯並びであること
2. 上下の歯並びの中心線が一致していること(前歯だけでなく奥歯も一致していること)
3. 前歯でサンドイッチや麺類がすっと噛み切れること
4. 上の1本の歯が下の2本の歯の間に噛み込み、下の1本の歯が上の2本の歯の間に噛み込んでいること
5. サイコロ状の肉を、左右の奥歯でしっかりと噛めること
「この5ポイントを満たした咬み合わせなら、どんな食べ物でもよく噛んで食べることができるでしょう」
では逆に、どういう咬み合わせならよくないのでしょうか――。
稲毛先生は、代表的な不正咬合(ふせいこうごう)には、前後的な問題と上下的な問題があると話します。
「前後的な問題がある例としては、上顎前突(出っ歯)や下顎前突(受け口)、叢生(デコボコ)が挙げられます。対して、上下的な問題としては、過蓋咬合(上の前歯が下の前歯に深くかぶさっている咬み合わせ)があります。これ以外に、開咬(かいこう/奥歯で噛みしめたとき、上下の前歯に隙間ができる咬み合わせ)や、交叉咬合(こうさこうごう/下の前歯が上の前歯より前に出たり、下の奥歯が上の奥歯より外側に出ている咬み合わせ)なども問題になります」
これらの不正咬合の中でも緊急性が高いのが、噛むことで口の中にキズができてしまう「外傷性咬合」といわれるもの。
「例えば、上の前歯のかぶさりが深い過蓋咬合でも、噛むことで下の歯肉を傷つけてしまう場合は外傷性咬合です。ほかに、上下の歯の先端が噛むたびに当たってしまう場合も歯の先端が割れたり、すり減ったり、歯肉が下がったりするので緊急性が高いといえます」
■家族の歯並びと咬み合わせをチェックしよう!
さて、あなたや、あなたのまわりにいる人の咬み合わせはいかがでしょうか? 鏡を見ながら、あるいは食事をする際に、次の設問に添ってチェックしてみましょう。
当てはまる項目が少ないほど、よい咬み合わせ、よい歯並びといえます。チェックがたくさんつく方は、矯正歯科を専門とする歯科医に相談してください。
※永久歯の先天性欠如
乳歯の下に本来あるべき永久歯が生まれながらにない場合をいいます。
くわしくは「トレンドウォッチ」vol.11をご覧ください。
●口には「食」「呼吸」「コミュニケーション」「感覚」「健康」の5つの役割がある
●このうち、感染を防いで健康を維持するためには、よく噛むことが大切
●よい咬み合わせかは、自己診断できる
★次のページでは、子どもの矯正歯科治療について知っておきたいことをご紹介!