「温故創新 — 矯正歯科臨床の未来を拓く– 」をテーマに
平成30年2月21・22日(水・木) にホテルグランヴィア岡山において第45回日本臨床矯正歯科医会大会・岡山大会が開催されました。大会テーマ「 温故創新 — 矯正歯科臨床の未来を拓く–」 のもと、講演、学術展示、症例展示などには多数の会員、ならびに会員外の先生にご参加いただきました。また、スタッフプログラムは大盛況をいただき、盛会裏に終了することができました。
大会参加者は、会員215名、スタッフ174名、会員外43名の計432名でした。また、懇親会参加者は206名で、ご招待者を含めると220名以上の方々に岡山の地元の料理、B級グルメ、地酒、ワインなどを楽しんでいただきました。
日本歯科矯正器材協議会のお力添えにより、商社展示は36社(41コマ)、昼食時の企業プレゼンテーションはドクター向けに1日目 7社、2日目 7社、スタッフ向けに 2社に協賛していただくとともにお弁当を提供していただき、参加されたみなさんは熱心に企業プレゼンテーションに聞き入っておりました。
大会前日の20日に開催されたエクスカーションの後楽園の見学に48名の先生やスタッフが参加いただき、22日に開催されたスタッフ向け倉敷美観地区観光に26名のご参加をいただき、岡山県の誇る2大観光地を楽しんでいただきました。
また、大会に先駆けて2月18日(日)に開催されました岡山大会併催「市民セミナー in 倉敷」では、「歯並びと健康 — 子どもたちの未来のために–」をテーマに岡山大学大学院歯科矯正学教授の上岡寛先生と広報理事の大迫淳会員にご講演いただき、34名の市民の参加を得ました。
以下に主な内容を掲載させていただきます。
【臨床セミナー】
「骨格性上顎前突の早期治療について考える その2」を昨年の千葉大会に続いて企画致しました。骨格性上顎前突の早期治療において、上顎骨の成長抑制と下顎骨の成長促進は矯正歯科臨床において有効な治療手段として認知されていますが、その一方で「 早期治療は臨床的に有効ではない」とするガイドラインも発表されています。「上顎前突の最適な治療開始時期はいつか?」という問いは、現在に至っても未だ多くの議論があるのも事実なのです。当会では、2年前に会員に「上顎前突の早期治療について治療開始時期などに関するアンケート」を行いました、結果は約90%の会員が早期治療を行うとの回答をいただいています。
今回は、野村聡会員には「 矯正歯科領域における診療ガイドラインについて考える」と題し、患者さんに矯正歯科治療に対する時期・方法などを適切に説明が出来、同時にその妥当性を正しく判断する能力が求められる、との講演をいただきました。
高橋滋樹会員には「 下顎遠心咬合の早期治療法に関する比較検討」 と題し、ANB 5°以上の骨格性上顎前突者 33名で、上顎骨の成長抑制を目的とした装置(headgear)を用いた症例 16名と下顎骨の前方成長の促進・誘導を目的とした装置(functional appliance)を用いた症例 17名を対象として治療前後のセファロ分析を行って比較検討した結果を報告していただきました。
講演終了後、会場からは大御所の先生から若い先生まで多くの質問の手が挙がり、この問題に対して先生方の関心の高さがわかり、かつ多彩で色々な考え方もあることがわかりました。是非、今後もこのテーマで、その3・その4と続くことを期待致します。
【会員アンコール発表】
鎌田秀樹会員(神奈川支部)
神奈川支部アンケート調査を元に、上顎犬歯による前歯歯根吸収の回避方法について検討した報告でした。
- 〔目的〕
- 上顎犬歯による歯根吸収を予期させる状態を認めた場合の回避方法について、アンケート調査を行い検討した。
- 〔資料と方法〕
- 資料は ① Dental age ⅢB 期以前のもの、② X線所見で前歯の歯根吸収が予見されるもの、③ 口腔内所見で犬歯部頰・舌側に膨隆を認めないもの、④ 症候性の疾患を伴わないものをすべて満たす症例とし、どのような処置を行ったかを調査した。
- 〔結果と考察〕
- 主な処置方法は上顎乳犬歯抜去、上顎乳犬歯および第一乳臼歯抜去、永久歯抜去、開窓・牽引、上顎歯列の側方拡大であった。また複数の処置方法を用いた術者が多かった。治療方針の選択は、病態や症状、治療の緊急性、患者の希望、治療コンセプトなどの要因から総合的に判断し決定したと考えられた。
募集した治療例より、適切な診断や処置を施すことは、上顎犬歯による歯根吸収を回避するだけでなく、歯根吸収を生じた場合でも状況を改善し、歯を保存できる可能性が高まることがわかった。したがって、このような症例に対して矯正歯科治療を行う意義は大きいと考えられた。 - 〔結論〕
- 上顎犬歯による前歯歯根吸収を回避するため、矯正歯科専門医は状況に応じてさまざまな方法を選択した。そして、適切な診断や処置を施すためには、高い知識や技術および経験が必要だとわかった。
- 〔症例〕
- 23歳4か月の女性で、歯並びがガタガタなのが気になるとの主訴にて来院。上下顎前歯部に重度の叢生を認め、上顎歯列弓の狭窄により第一大臼歯部では交叉咬合を呈し、切歯部から小臼歯部にかけては開咬を認めた。また、大臼歯関係は左右側ともにⅢ級を呈していた。上下顎骨の前後的関係は骨格性Ⅲ級であり、側貌はconcave typeであった。
- 〔治療経過〕
- 上顎については歯列弓の拡大、およびストリッピングを併用し、下顎については左右側第一大臼歯の抜去を行い、叢生および大臼歯咬合関係の改善を行った。
- 〔結果〕
- 治療開始28か月後、適切な被蓋関係と咬合関係が確立された。保定開始後2年1か月が経過し、わずかな後戻りを認めるものの、安定した咬合を維持している。
- 〔考察〕
- 本症例では、患者の強い希望を考慮し矯正歯科治療単独での治療を選択し、結果として患者の満足を得ることができた。診断の際に、医療従事者と患者の希望が必ずしも一致しない場合がある。診断に際して事前の十分な話し合いをもつこと、そして自己の治療技術の研鑽に努めることはもちろんであるが、長期安定の確立のためには、長期間に及ぶ経過観察と対応をしていくことが重要であると改めて考えさせられた。
- 〔症例〕
- 初診時年齢23歳3か月の女性で、矯正歯科治療の後戻り(受け口、下の前歯のガタガタ、上下の歯の正中のずれ)を主訴に来院。側貌はconcave type を呈し、下顎が右側に偏位。下顎左右側第一小臼歯抜去にて治療済みであったが、臼歯関係はClassⅢ 咬合よりもさらに右側3.0 mm、左側7.0 mm 下顎臼歯が近心に位置し、前歯部の反対咬合で、ANB -2.3°の骨格性下顎前突であった。
- 〔治療経過〕
- 上顎よりブラケットを装着し、レベリング開始。
…抜去後、下顎臼後結節部に歯科矯正用アンカースクリューを植立。下顎のレベリング後、スクリューから下顎歯列の牽引を行った。顎間ゴムにてdetailing を行った。 - 〔結果と考察〕
- 反対咬合、叢生も改善され、臼歯関係もClassⅢ 咬合が獲得できた。下顎骨の右方偏位は残ったが、上下の正中は一致した。パノラマX線写真より歯根の平行性も確認でき、安定した咬合が得られた。また審美的にもSmile 時の切歯露出量が改善した。
外科的処置を行わない下顎前突の治療では、顎間ゴムの使用が必須になる。しかし、長期のⅢ級ゴムの使用は下顎前歯の挺出を起こし、incisal showing の悪化を起こす。歯科矯正用アンカースクリューを使用することは治療期間の短縮だけではなく、審美的な有用性が認められた。また本症例においては、リンガルブラケットを使用したために、下顎歯列の移動の際に効率的なフォースベクトルを得られた。 - 1) フロスと出会って私は変わった 〜今までのTBIは何だったの?〜
- 寺田奈津子(じゅん矯正歯科クリニック 歯科衛生士)
- 2) 矯正患者に対する効率的なブラッシング指導について(1期治療期において)
- 平岡利恵(医療法人深井矯正歯科クリニック 歯科衛生士)
- 3) Electropalatography(EPG)を用いたMFTの評価について
- 山地加奈(こうざと矯正歯科クリニック 歯科衛生士)
- 4) 当院におけるMFT患者のデータ管理方法
- 飯嶋あい(東戸塚たいらく矯正歯科 歯科衛生士)
- 5) 成長期の子どもたちを健やかに育てるために私たちができること
- 細田佑紀(小川矯正歯科 歯科衛生士)
- 6) 初診カウンセリングでのトリートメントコーディネーター(TC)の役割
- 中谷藍(岡下矯正歯科 トリートメントコーディネーター)
- 7) 機能的矯正装置の設計と製作法
- 大村美鈴(のむら矯正歯科 歯科技工士)
- 8) 技工物の設計とその管理について
- 山本孝教(岡下矯正歯科 歯科技工士)
- 9) 信頼関係を築くための受付スタッフとしての関わり方
- 松尾利枝(小川矯正歯科 受付)
- 10) 円滑な診療のための診療補助
- 塚本幸(医療法人タカハシ矯正歯科 歯科衛生士)
- 11) 院内の在庫管理について
- 湯浅志穂(平岡矯正歯科 歯科衛生士)
- 12) 通院が楽しみになる医院づくり
- 小寺真智子(医療法人深井矯正歯科クリニック歯科衛生士)
- 13) 患者さんとのコミュニケーションロスによるトラブルを軽減させるための工夫
- 黒宮麻由美(いけもり矯正歯科 歯科衛生士)
- 14) 診療時間外における患者さんからの連絡対応についての工夫
- 池森伸江(いけもり矯正歯科 歯科衛生士)
- 15) 矯正歯科治療と管楽器
- 金高由香(のむら矯正歯科 歯科衛生士)
速水勇人会員(近畿北陸支部)
外科的矯正治療の適応と思われる開咬を伴う骨格性下顎前突症例に対し、矯正歯科治療単独にて治療し、咬合の安定を得られた成人症例の報告でした。
山片重徳会員(近畿北陸支部)
下顎左右側第一小臼歯抜去にて治療を行われた後の骨格性下顎前突症例に対し、外科的処置を行わずに再治療を行った症例の報告でした。
【第13回「 ブレース スマイル コンテスト」 表彰式】
公益社団法人日本臨床矯正歯科医会と日本歯科矯正器材協議会が共同開催する、矯正歯科治療中の方を対象にした笑顔のフォトコンテスト、「ブレーススマイル コンテスト」。その表彰式が、去る2月21日(水)、本大会が開催されたホテルグランヴィア岡山にて開催されました。
2005年からスタートした同コンテストは、今回で13回目となりました。今回の第13回「 ブレース スマイル コンテスト」 は『 もっと!輝く笑顔へ!』 をテーマとし、矯正歯科治療中の笑顔の写真を募集しました。全国の6歳〜65歳までの幅広い年齢層から、470作品もの応募をいただきました。応募総数は過去最高数となりました。
2017年9月14日に実施された一次審査で入選作品を選出し、さらに、10月19〜20日に北海道札幌市で開催された第76回日本矯正歯科学会大会期間中に大会参加者の投票によって行われました二次審査により、最優秀賞、優秀賞、大会賞を決定しました。
今回、多数の応募作品の中から栄えある最優秀賞に輝いたのは、香川県在住の坂本珠里さんの『踊る!よさこいスマイル♬
』でした。優秀賞 2作品には小川友子さん(大阪府在住)の『 家族三人ただいま矯正歯科治療中』 と、渡辺雄児さん(埼玉県在住)の 『キラキラ笑顔キラキラ坊主』 が輝きました。岡山大会の開催地にちなんで設定された岡山大会賞は行廣実弥乃さん(広島県在住)の作品『 ごはん美味しい!』 が選出されました。
それぞれステージの中央で、賞状と記念品を受け取り、主治医より「 おめでとうございます」の言葉とともに両手いっぱいの花束が贈呈されると、受賞者の方々からは満面の笑みがこぼれていました。
【臨床セミナー】
私の矯正歯科臨床を振り返って
浅井保彦 会員(東海支部)、花岡 宏会員(中四国支部)
本大会のテーマである『温故創新』にちなんで、臨床経験が豊富で会長経験者でもある浅井保彦先生と花岡宏先生を演者とし、ご自身の臨床の軌跡を振り返って、治療目標の設定で重視すること、代表的な治療例、二段階での治療についての考え方、若手の先生方に専門医として伝えたいことなどについてご講演していただきました。
花岡先生はご自身の略歴を簡単に触れられた後、約50年の臨床経験を前半の30年、後半の20年に分けられて多くの症例を提示されながらお話をされました。前半はマルチブラケット装置の導入期から、オルソペディックな効果を期待する治療法について、その歴史や考え方、代表的な文献についても説明されました。後半は外科的矯正治療、唇顎口蓋裂の自家骨移植術、自家歯牙移植について多くの症例を交えて説明されました。
お二人の先生の熱い想いのこもったご講演に多くの先生が最後まで耳を傾けておられました。
【招待講演】
本大会では海外からの招待講演として、Taiwan Orthodontic Society(TOS)のCheng-Ting Ho先生、Korean Society of Orthodontists(KSO)のChong OokPark先生にご講演いただきました。
海外招待者講演1
「Treatment of horizontally impacted mandibularsecond molars」
Dr. Cheng-Ring Ho(Assistant professor, Chang-Gung University)下顎第二大臼歯の埋伏に対する対応について、お話しいただきました。
講演では治療法として、アンカースクリューを固定源にして近心に倒れこんでいる第二大臼歯を整直させる方法と、外科的に再植をする方法、それぞれを使った症例を紹介していただきました。
どちらの方法で治療するかは、どちらの方法が良いとは一概には言えず、治療にあたっての難易度、第二大臼歯の埋伏の状態(歯軸や骨内での深さ)、また何が患者にとって最も良い方法かということを考慮して選択すべきだと説明されました。
講演では出現頻度は 0.03%と説明されていましたが、Posterior discrepancyによって出現するこの症状は、近年見かけることがますます増えてきているように感じます。
日々の臨床でよりよい結果に結びつけるべく、とても参考になる症例を供覧していただきました。
海外招待者講演 2
「Effective treatment strategies to optimize skeletalclassⅢ open bite malocclusion with a maxillaryconstriction:Over 2 years of post treatmentretention and stability」
Dr. Chong-Ook Park(Adjunct Professor, Seoul National University Department of Orthodontics,Clinical Professor, Catholic University Departmentof Orthodontics他)骨格性Ⅲ級開咬症例の治療について、ご講演いただきました。
骨格性の不正咬合を効果的に治療するには、理想的な咬合を獲得するためにも長期的な安定を目指すためにも、狭窄している上顎の歯列を拡大し、十分な歯列幅径を獲得することが非常に重要です。
成長期の患者には上顎骨の拡大をしながらlipbumperやvertical chin cap、protraction headgearなどを用いて治療を行います。
一方、成人の患者には通常の拡大装置のみならず、Surgically Assisted RPE(SARPE)やLe FortⅠ型骨切り術などの外科的処置を伴う方法やMicroimplant Assisted RPE(MARPE)も必要となる場合があります。外科的処置を行うほどの難症例であっても、SARPEを併用することでLe FortⅠ型骨切り術単独で行うよりも移動量を減らすことができたり、術後の安定が増したりするといった利点があります。外科的処置を希望しない患者も少なからずいますが、非外科の治療法では骨格的なアンバランスの修正が困難なばかりではなく、長期的な安定も難しくなる場合があります。
骨格性Ⅲ級開咬症例の治療にあたっては、患者ごとに適切な方法や装置を使うよう治療計画を立案し、それについてそれぞれの患者を教育し、説明を重ねていくことが私たちプロフェッショナルとしての仕事だと結んで、ご講演を終えられました。
【スタッフプログラム】
プログラム1
モンゴル健康科学大学 客員教授( 前 岡山大学病院小児歯科 講師)歯学博士 岡崎好秀先生をお招きしてご講演いただきました。
先生の最近のモットーは”偉くなることより、ビッグな仕事をしたい!”、”楽しい”ことを創造性の原点でいかに楽しく仕事をし”自分の仕事と趣味を一致”させることができるかを追求すること、と述べていらっしゃいました。
そして歯科治療の現場へのメッセージとして、「”子どもの歯の治療”と言えば”泣くこと”を思い浮かべるでしょう。でも泣いたまま帰ると、次はもっと泣くのです。これを”心に借金をして帰る”と言います。” 心に借金”をすると、まさにサラ金のように倍々ゲームで借金が増えていきます。そして人間関係もダメになるのです。一方、”笑顔で帰る”、すなわち”心に貯金をして帰る”と、次に来た時には前よりも”おりこう”になるのです。そういう関係を心がけていると、いつまでも来てくれる患者さんになるのです」と、非常に示唆に富んだメッセージをいただきました。
岡崎先生のご講演内容は非常に幅が広く、歯科医の眼、患者の眼、頭の毛の先から足の裏、さらには宇宙まで視野を広げて、口の中との関係についてお話がありました。また最近は、ヒトの口の機能の発達にも関心をお持ちで、進化や動物学の情報収集に余念がなく、有名な動物園や水族館へ往診し歯の治療のアドバイスを行ってらっしゃるとのこと。スライドではイルカの歯科治療の様子が紹介されていました。博学無比な岡崎先生のご講演は、興味の範囲を歯科から世界に広げるという大きな夢を、日本臨床矯正歯科医会の参加スタッフにご示唆いただけたことと思います。
プログラム2
スタッフ・ラウンドテーブル・ディスカッション(RTD)
例年好評を博しているプログラムで、今回は15名のモデレーターにそれぞれテーマを挙げてもらい、各テーブル5〜13名に分かれて総勢161名にてディスカッションをしていただきました。矯正歯科医院のスタッフとして全国から集まった人々が様々なテーマに関して直接疑問や悩み、新しいアイデアについて話し合え、意見交換できるのは大変有意義なプログラムであったと思います。以下は各テーブルのテーマとそのモデレーターです。