「変化する社会構造- 矯正歯科医が向かうべき姿- 」をテーマに
令和4年2月16日(水)~2月17日(木)に第49回日本臨床矯正歯科医会大会・北海道大会(今井徹大会長)が開催されました。
今回の大会は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響から参加者の安全を優先するため、ハイブリッド開催となりました。
【教育講演1】
明海大学歯学部形態機能成育学講座歯科矯正学分野の須田直人教授に、「矯正治療における抜歯部位の考察」と題してご講演いただきました。
須田直人 先生
(明海大学歯学部形態機能成育学講座歯科矯正学分野教授)
講演は①犬歯抜歯を選択せざるを得なかった症例について、②犬歯埋伏や異所萌出に伴う隣在歯の根吸収を示した症例について、③自家移植において移植歯の根形態を3DCTから造形し移植部位の骨形態の形成に役立てたという症例について、の3部に分けられ、小臼歯以外の抜歯を行った症例への考察を示されました。犬歯抜歯を選択せざるを得なかった症例については、主には犬歯の位置に第一小臼歯を排列することでの、主には機能的なデメリットがどの程度有るのかという考察を、解剖学的、生理学的バックグラウンドとともに、ご解説をして頂きました。埋伏犬歯による隣在歯の根吸収については、奇しくも昨年秋に本会広報事業として行ったプレスセミナーでも取り上げた内容であり、須田教授からもわれわれと同じく歯を護るために適切な時期にX線写真撮影が必要という意見を聞くことができました。
最後の3DCTから作成した歯根の立体造形モデルの臨床応用については、ブラケットがない状態で3DCTを撮影できたことがアーチファクトの低減につながり、精度向上につながったと述べられていました。
【教育講演2】
北海道大学大学院歯学研究院口腔医学専攻口腔機能学分野歯科矯正学教室 佐藤嘉晃教授に『Dentoalveolar surgeryと矯正歯科治療』と題してご講演いただきました。
佐藤嘉晃 先生
(北海道大学大学院歯学研究院口腔医学専攻口腔機能学分野歯科矯正学教室教授)
歯や支持組織を含む外科手術や周術期管理にかかわる分野であるDentoalveolar surgeryを様々な矯正歯科治療に取り入れ、チーム医療として積極的に実践されている埋伏歯への対応、顎裂部骨移植、歯の移植と矯正歯科治療について、実際に外科処置を担当している口腔外科医の松沢祐介先生もzoomで参加され、多くの症例とともにご解説をして頂きました。
歯科矯正用アンカースクリューが一般的に使用されると同じように治療の一環としてDentoalveolar surgeryの考えが入ってくることが予想され、治療のオプションが増える一方、ベネフィットとリスクを十分に検討して臨む必要があり、口腔外科医等との十分な情報共有が必須となると述べられていました。
【教育講演3】
鶴見大学名誉教授・上海理工大学特任教授の花田信弘先生に「歯科医療発展のためのイノベーションの方向性」と題してご講演いただきました。
花田信弘 先生
(鶴見大学名誉教授、上海理工大学特任教授)
イノベーションは、単に新技術の導入だけでなく、新技術の導入によりこれまでの常識を変える新たな概念を創り出すという意味であります。
歯科医療が今後衰退することなく、国民からのニーズに即した存在意義を明確化するために必要なのは歯科医療のイノベーションであるという概念のもと、現在のコロナ禍における全身管理の重要性や、生涯健康であるための未病ケアの重要性についてご説明いただき、歯科医師が専門医であると同時にプライマリ・ケア医になる必要性について解説していただきました。
我々矯正歯科医も口腔内の機能的、審美的改善を目指すだけに留まらず、未病ケアに携わるプライマリ・ケア医をめざすことの医学的必然性とそのために必要なイノベーションについての課題提起を行っていただきました。
【招待講演1】
Dr Myung-Rip Kim(韓国臨床矯正歯科医師会 KSO)に『Orthodontist at the Multidisciplinary Team for Pediatric Obstructive Sleep Apnea』と題してご講演いただきました。
22からなる質問票(Pediatric Sleep questionnaire:いびきの頻度、いびきの大きさ、無呼吸、睡眠中の呼吸困難、日中の眠気、不注意または多動など)を用いた睡眠時無呼吸症候群(OSA)の評価・診断を解説して頂きました。OSAは解剖学的な問題よりも神経学的な問題であるので、小児のOSAはアデノイド口蓋扁桃摘出術単独治療では改善されにくかったり、残存したりすることもあります。矯正歯科治療でRMEを併用することによって、より改善に導くことを述べられていました。ただしその使用にはまず睡眠専門医による診断を仰ぐことが必要であることも強調されていました。
【招待講演2】
Dr Cheng-Ting Ho(台湾口腔矯正医学会 TOS)に『The Full digital 3-D surgical planning for orthognathic surgery without the need of dental cast』と題してご講演いただきました。
Cheng-Ting Ho 先生
(台湾口腔矯正医学会 TOS)
3Dのデジタル技術は、歯科の中でも矯正歯科と口腔外科に最も活用の場があることは周知の通りであるが、まだまだメリットやコストに対する理解は進んでいないと言えます。例えば外科矯正のためのスプリントの作製にCTと口腔内スキャナーを併用することで、3次元画像から骨や歯の移動量の決定、仮想咬合の構築、3Dプリンターによる作製と、完成までに至る時間も半分ほどに減少できます。さらに従来の歯列模型よりも精度が高く、咬合干渉の評価を視覚的でかつ定量化できる点も優れており、術後安定性も高まると思われます。そういう視点から、サージェリーファーストを行う上でもアドバンテージは大きいとご解説して頂きました。
左右非対称症例では、3次元画像で上下顎骨の移動量の左右のわずかな差も表現できるために、口腔外科医と質の高い連携がなされ、極めて良好な結果が得ることができます。
術前計画において矯正歯科医と口腔外科医との間で同一の視覚イメージを共有し、同じ目標設定の元で治療にあたる、まさにそういう3Dデジタル技術の恩恵を享受できるのも間もなくといったところではないだろうかと述べられていました。
【スタッフ&ドクターセミナー】
北海道医療大学看護福祉学部臨床看護学講座教授の塚本容子先生に「新型コロナウイルスと私たちの未来:Harm Reductionという考え方」と題してご講演いただきました。
塚本容子 先生
(北海道医療大学看護福祉学部臨床看護学講座教授)
「Harm Reduction」とは、個人ならびに社会への危害(Harm)を軽減する(Reduction)ための社会実戦で、公衆衛生および社会政策上の概念枠の一つとして提唱されています。
コロナ禍により、社会的格差と健康格差が深まり、社会的な問題が起きてきています。今後の課題は、高齢者施設ではクラスター発生時の支援体制、治療薬の適切な使用と検査体制です。一方、若者は高齢者よりもメンタルに影響を受けやすく、不安症・うつ症状・睡眠障害などの訴えが多く、女性の自殺者が増えているため、重症化のリスクの高い高齢者と若者に対するケアとに分けて対応する必要があるとご解説をして頂きました。「怖れ」は人間の感情の中で最大のものであり、「怖れ」からストレスにつながっていくため、正しく怖れることが重要であり、そのためには知識のupdateが必要です。感染をゼロにすることができない中で、私たちがwell-beingになるために、人への感謝を記録することや運動を行うこと、社会的交流が重要と述べられていました。
【スタッフプログラム1】
伊藤智恵会員(東北支部)に『こんなにすごい!矯正歯科診療所のスタッフ力』と題してご講演いただきました。
伊藤智恵 会員(東北支部)
受付は医院の顔です。気持ちのいい、心のこもった電話応対や患者応対はもちろんですが、待合・医院のエントランス・玄関入口を丁寧に掃除することも重要です。歯科技工士は可撤式装置が違和感なくフィットし、そして効果ある装置を設計し作製していくことで、患者さんの励みになります。歯科衛生士は治療期間を通じてカリエスコントロールはもちろん、歯肉炎の抑制やPMTCを行うことによってブラックトライアングルの改善や歯牙移動にも良い影響を与えます。
このように矯正歯科診療所のスタッフは長い治療期間を通じて患者さんのQOLを高めるサポーターであるということを解説いただき、患者さんとより良いコミュニケーションをとることが診療所全体にとっても非常に重要であると述べられていました。
【第17回ブレーススマイルコンテスト表彰式】
「ブレーススマイルコンテスト」(後援:日本歯科矯正器材協議会)は矯正歯科治療中の方を対象にした笑顔のフォトコンテストです。2005年からスタートした同コンテストは今回で17回目を迎え、その表彰式が大会初日の2月16日に開催されました。
スクリーンに映る第17回ブレーススマイルコンテスト受賞者とともに記念撮影
今回は『もうすぐ笑顔の出番です』をテーマに募集しましたところ、全国の6歳〜62歳までの幅広い年齢層から338作品(会員外107作品)もの応募をいただきました。
表彰に先立ち野村泰世会長より競泳女子日本代表・金メダリスト 大橋悠依選手に特別賞を贈らせていただいたとの報告があり、大橋選手から矯正歯科治療を頑張るすべて方々へ向けたコメントが披露されました。
今回、多数の応募作品の中から栄えある最優秀賞に輝いたのは、松尾紗代子さんの『いただきます!』でした。優秀賞には久本りかさんの『反抗期の娘と』。北海道大会大会賞には山田麻結さんの『家族』 が選出されました。
ハイブリッド開催でしたので受賞者にはZOOM参加いただき、写真のエピソードやこれから矯正歯科治療を開始する方々にメッセージなどをいただきました。