第50回記念日本臨床矯正歯科医会大会・九州大会レポート|未分類記事|質の高い矯正治療と安心の提供に努める矯正歯科専門の開業医団体「日本臨床矯正歯科医会」

第50回記念日本臨床矯正歯科医会大会・九州大会レポート

第50回 日本臨床矯正歯科医会・九州大会レポート

The JpAO – A Leader in Clinical Orthodontics for Half a Century」をテーマに

令和5年2月21日(火)~2月22日(水)に第50回日本臨床矯正歯科医会大会・九州大会(佐藤英彦大会長)が開催されました。今回の大会は新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大防止による開催自粛後、2年ぶりのリアル開催となりました。

 

【第50回記念大会記念行事「JpAOの未来」】

第一部として行われた「記念式典」では、公益社団法人日本矯正歯科学会の齊藤功理事長をはじめとする国内外からの来賓5名から祝辞をいただきました。続いて本会設立メンバー(以下、ファウンダー)である9名のうちご存命の菅原勇会員、多胡彬会員、松本圭司会員の3名に対し、これまでの多大な功績を称え、大会直前の総会で承認された名誉会員の称号が授与されました。

第二部では「50周年記念座談会」が行われました。それに先駆けて松本会員、菅原会員へのインタビューの様子が「ファウンダーからのメッセージ」として放映されました。

 

松本圭司会員(左)と菅原勇会員(右)

二名のファウンダーの、決してご高齢とは思えない矍鑠としたインタビューの様子に、我々会員も背筋が伸びる思いでした。

 

その後は「JpAOの未来」をテーマに野村泰世第24代現会長と元会長3名(篠倉均第13・14代会長、池森由幸第17代会長、浅井保彦第20代会長)による公開座談会が行われました。

本会のファウンダーの思いを継承し、今後の本会と矯正歯科界の発展のために会員として何を選択していくべきか、非常に考えさせられたプログラムでありました。

 

【『Looking forward to the Next Half Century -A Gift of Wisdom to our Future Leaders』 九州支部企画】

日本臨床矯正歯科医会が50年の節目を迎えるにあたり、今回支部企画として経験豊富な3名の会員に、次世代の矯正歯科医たちに伝えたいことを、それぞれの立場から語っていただきました。

まずは小坂肇会員より、『矯正歯科治療後の長期安定性を考える−長期経過症例から見えてくるもの−』と題してご講演をいただきました。異なる不正状態を有する長期経過9症例ご紹介いただき、治療後に咬合を不安定にする要因とともに、長期安定するためにどのような要素を考慮すべきかについて、ご解説いただきました。長期安定性を得るために、歯列咬合だけでなく、顎態や筋などの広範囲を関連要因ととらえる視点を持ち、各症例が有する特性や背景を理解した上で、治療方針や保定管理を考える必要があることを学ばせていただきました。

続いて安香譲治会員より、『歯科矯正用アンカースクリューの25年間』と題して歯科矯正用アンカースクリュー(TADs)の登場で矯正歯科治療がどのように変化してきたのか、ご講演いただきました。TADsを黎明期より使用してこられた経験から、TADsをそれぞれ異なる目的で使用した7症例をご紹介いただき、幅広い応用法についてご提示いただきました。TADsの登場が矯正歯科臨床においていかに重要であるかを再認識するとともに、さらに今後TADsの世界がどのように進化していくのか、期待を抱かせていただけるご講演でした。

最後に島田正会員より、『半世紀・・・変わったこと。変わらないこと。−矯正歯科に関わった50年から観えたこと−』と題してご講演をいただきました。創立50周年を迎えた日本臨床矯正歯科医会の足跡について、ご自身の40年間の矯正歯科専門開業医としての足跡も交えつつご紹介いただきました。半世紀の間に大きく変わったものの、本質的に変わらないことや変わって欲しくないことがあるという、矯正歯科界への想いの溢れた素晴らしいご講演でした。

3名の会員の長年の臨床経験に触れるとともに、これからの矯正歯科界をリードするであろう若い矯正歯科医に向けての大きなご助言も賜り、50回記念大会を総括するに相応しいご講演となりました。

 

【『中高年の矯正歯科治療』 学術企画シンポジウム】

今回の50回記念大会では、「中高年の矯正歯科治療」と題したシンポジウムを行い、学術委員の篠倉千恵会員から「中高年者の矯正歯科治療に関する会員アンケートの結果報告」、同じく学術委員の朝井寛之会員より「中高年の矯正歯科治療における歯の移動量に関わる研究:下顎前歯に着目して」と題し、発表が行われました。その後、三村博会員より「上下顎同時移動術を施術した中年の骨格性上顎前突症例」、佐藤英彦会員より「中高年の矯正歯科治療の患者としての経験から伝えたいこと」、野村聡会員より「重篤な歯周疾患を伴う高齢者の矯正歯科治療を経験して」、阿部純子会員より「中高年の開咬症例 プロファイルの変化、機能的な問題の改善と診断」、稲毛滋自会員より「非外科的に治療した中高年骨格性下顎前突の長期安定症例について」と、症例報告を交えて中高年の矯正歯科治療に関する考えをお話しいただきました。

学術委員会からの2題では、ここ5年間また20年前の神奈川県における調査に比しても中高年の矯正歯科治療患者が増加していること、多くの中高年患者が機能面の改善を主訴としていることが示されました。一方、本会会員の意識としては、中高年の矯正歯科治療においては、治療目標を若年者とは変えるという回答が多数であったにも関わらず、朝井会員による形態的研究では、本会会員の治療結果においては、「若年者と中高年者の治療結果においては有意な変化が認められず、会員の多くが中高年の矯正歯科治療は難しいという意識を持ちながらも、しっかりと治療を行い若年者の矯正歯科治療とはかわらない結果をだしている」ことが示唆されました。

 

その後に続いた、症例報告では中高年特有の治療の難しさに対する対応を示していただき、大変有益でした。治療結果については、若年者とは異なる中高年患者の問題に配慮した治療目標を設定している症例もありましたが、良好な予後は治療目標の設定が間違いではないことを示しているように感じました。

 

中高年の矯正歯科治療においては、歯周病を始め、欠損歯や失活歯が多いことが問題となることが多いと思いますが、今回軟組織の厚みや加齢による変化についても改めて強調されたようにも思います。会場からも活発に質問をいただき、演者7名に最後に中高年患者の治療目標設定に関する見解をご発言いただきました。中高年患者が増加している中ではありますが、本会でもまだまだ中高年の矯正歯科治療に関する報告は充分とは言えず、また10年後には改めてこのような形で会員が中高年の治療について考える機会があればよいと感じました。

 

【招待講演1(渉外委員会企画)】

Dr. Kim, Byoung Ho(韓国臨床矯正歯科医師会 KSO)に『CBCT superimposition of Class III non-surgical treatment』と題してご講演いただきました。

骨格性III級のケースに上顎のMARPE (miniscrew assisted rapid palatal expansion)を用いた拡大と 下顎のSkeletal anchorageを用いた歯列の遠心移動を行い、その治療変化をCBCT画像の重ね合わせにより紹介した。比較結果は、様々な文献でも見られるようにMARPEによって骨格性の変化が認められるとのことであった。成長のあった成人が含まれるにもかかわらず、歯列の遠心移動によって下顎の反時計回転を起こすことができ、咬合平面は平坦化される。大変興味深かったことは、治療終了時下顎前歯周囲の歯槽骨のBone Levelは一旦は減少するが、保定中に良好な回復が起きていることが認められるとのことである。MARPEは故障の頻度が気になるところであるが、Dr. Kimによればそれも10%ほどとのことである。

 

【招待講演2(渉外委員会企画)】

Dr. Richard Chen-Feng Cheng(台湾口腔矯正医学会 TOS)に『Orthodontic Treatment for Facial Asymmetry Patient』と題してご講演いただきました。

顔面の非対称患者の治療に対しては、最初にその評価をすることが大事である。Dr. Chengによると、オトガイよりも鼻の歪みの方が非対称として認識されやすいとのことである。しかしながらオトガイの偏位が4ミリ程になると非対称と認識される。講演では、軟組織の不調和がある第二大臼歯の鋏状咬合のケースや、顎関節可動域に問題があり、マニュピレーションとスプリントを使用したケース、および咬合平面のカントを改善したケースなどが紹介された。それらはすべて、外科的処置を行わずに矯正歯科治療単独で良好な結果が得られたものであった。治療前の顔面非対称に対する評価をしっかり行うことが、正しい治療方針の決定や良好な治療結果をもたらすということが示された素晴らしい内容であった。

 

【スタッフプログラム1】

スタッフプログラム1では、株式会社デンタルタイアップ代表取締役、小原啓子先生に「100円グッズから始める「歯科医院の整理・収納アイデア集」見た目がキレイ! スタッフが働きやすい! 空間を有効活用できる!!」と題してご講演をいただきました。

経営学から応用したマネジメントシステムの中の一つ、5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・躾)より具体的な事例を写真で紹介していただきながら、わかりやすく解説をしていただきました。

【スタッフプログラム2】

「MFTと矯正歯科治療の効果的な連携―機能と形態の長期安定性をめざして―」と題して、MFTの第一人者である高橋治先生、未哉子先生にご講演いただきました。満席の会場の中、先生方の患者さんへの愛を感じるたくさんのスライドをご提示いただきました。患者さんにどう伝えるか、伝わるとどう変わっていくのか、たくさんの長期症例から学ばせていただきました。

 

 

【第18回ブレーススマイルコンテスト表彰式】

「ブレーススマイルコンテスト」(後援:日本歯科矯正器材協議会)は矯正歯科治療中の方を対象にした笑顔のフォトコンテストです。2005年からスタートした同コンテストは今回で18回目を迎え、その表彰式が大会2日目の2月22日に開催されました。

今回は 『さあ、笑顔を解き放とう!』 をテーマに募集しましたところ、コロナ禍のなか、普段マスクに隠された明るい笑顔が解き放たれた様子や一生懸命に治療に励む姿など様々なシーンに彩られた394作品(会員外128作品)もの応募を、全国の5歳から60歳と幅広い年齢層の方からいただきました。

多数の応募作品の中から栄えある最優秀賞に輝いたのは、田中雲雀さんの 『押忍』 でした。空手の道着姿で輝かしいトロフィーの前でガッツポーズした写真はとても凛々しさを感じさせる素敵な笑顔の作品でした。優秀賞には我妻ゆきのさんの 『私の夏休み~2022~』でした。やっと行くことができた旅行先で浴衣を着て撮った作品で、まさに笑顔が解き放たれていました。九州大会大会賞には佐藤真夕さんの 『GROW UP!』 が選出されました。治療を開始した小学生のときの写真とともに現在高校生になった3つ子さんを収めた温かい作品でした。

3年ぶりの対面による通常開催となったため、受賞者の方全員に参加していただくことができました。写真のエピソードなど直接受賞者からお話を伺うこともでき、コロナ禍の終わりを感じさせる希望に満ちた表彰式となりました。

 

【アンコール賞】

深井統久会員に「非抜歯により治療したアングルII級症例」と題し下記内容の症例発表をしていただきました。

【症例の詳細】:初診時年齢 10 歳2か月の男子,主訴は上顎前歯のガタガタ.既往で上顎前歯の過剰歯を抜去.側貌はやや上口唇の突出感を認めたが,正貌は対称.口腔内所見では上顎右側側切歯が口蓋側転位し,下顎前歯と逆被蓋を呈していた.上顎歯列のスペース不足は-6.0mm に対して,下顎歯列の叢生は-2.0mmであった.また上下顎歯列とも狭窄していた.

【診断】上顎前歯の叢生を伴うアングルⅡ級不正咬合.

【治療方針】下顎歯列の叢生は軽度で,上下歯列の拡大と成長による臼歯関係の改善を見込んで非抜歯で治療を行うこととする.上顎歯列の側方拡大後,大臼歯の遠心移動を行う.下顎歯列も拡大後,上下顎歯列にマルチブラケット装置を装着し前歯の整列をはかる.

【治療経過】上顎に hyrax type の固定式拡大装置を装着して側方拡大を開始.その後,GMD にて上顎大臼歯の遠心移動,1 年後に Nance に交換し上顎歯列にマルチブラケット装置(.018×.025)を装着して前歯の整列に移行.下顎は lip bumper にて大臼歯の拡大と整直をおこない,マルチブラケット装置にて下顎歯列を整列.第二大臼歯のコントロールおよび上下歯列の整列とスペースを閉鎖し咬合を確立した.

【結果と考察】 抜歯の可能性も考えられたが、第一小臼歯抜去を選択した場合上下顎歯列は狭いままで,上下顎前歯は必要以上に後退したものと考えられた.上下顎歯列とも狭窄しており下顎歯列の叢生は軽度でかつ前歯の位置も問題はなく,上顎大臼歯を遠心に移動することで治療可能と判断し非抜歯を選択した.治療開始年齢が10 歳と早期に治療を開始する利点が、本症例でも示されたと考える