Q1:現在、矯正歯科治療受診を考えていますが、治療期間が大幅に短くなる”デーモン・システム”という方法があると聞きました。この方法で本当に治療期間が大幅に短くなるのでしょう|未分類記事|質の高い矯正治療と安心の提供に努める矯正歯科専門の開業医団体「日本臨床矯正歯科医会」

Q1:現在、矯正歯科治療受診を考えていますが、治療期間が大幅に短くなる”デーモン・システム”という方法があると聞きました。この方法で本当に治療期間が大幅に短くなるのでしょう

 ”デーモン・システム”が一般的な矯正歯科装置(ブラケット)と異なる点としては、(1)セルフ・ライゲーション・ブラケットと言われる、ブラケットとワイヤーを接続させる部分がゴムや細いワイヤーを用いるのではなく、ブラケットそのものに組み込まれている点。(2)ロ-・フリクション・ブラケット(低摩擦型矯正歯科装置)と呼ばれ、ブラケットを介して歯を動かす時に生じる、矯正歯科装置(ブラケット)とワイヤーの摩擦を低減することにより、歯の移動をスムースにさせようとする点。が挙げられます。(1)に関しては、ブラケットとワイヤーの接続が容易であり、1回の治療時間(歯科医院の診療台の上に座ってお口を開けている時間)が短く、またブラケット周辺への汚れが付きにくく、お口の中の衛生状態を比較的良好に保ちやすい。という利点があると言われています。(2)に関しては、このタイプの矯正歯科装置は以前から”デーモン・システム以外にも様々なものがありましたが、これらを治療に用いることによる治療期間の大幅な短縮に関しては、未だ、キチンとした医学的に明確な根拠(厳密な研究手法で行なわれた公正なデータ)はなく、また矯正歯科専門医の間でのコンセンサス(大多数の矯正歯科専門医が一致して認めること)も得られていないと言えます。
 歯の移動は、その主体となる歯槽骨(歯を支える骨)や歯根膜(歯と歯槽骨の間にある靭帯)の細胞活性や骨改造サイクルといった”生物学的”要因が重要で、矯正歯科装置とワイヤーの摩擦といった”物理学的”要因が低減されれば、歯が早く移動するとはいえないことに加え、矯正歯科治療全体のプロセスからみると、治療には、歯を移動することばかりでなく、歯を安定させることや、歯を適切にコントロールして移動させることも重要であり、矯正歯科装置とワイヤーの摩擦の低減が、そのまま矯正歯科治療全体の治療期間の大幅な短縮につながるかは不明です。
 矯正歯科治療には様々な方法や装置がありますが、現在のところ”他のものよりも飛躍的に優れた矯正歯科装置や治療方法”はありません。矯正歯科治療を受診する上で大切なことは、矯正歯科装置や治療法の種類ではなく、矯正歯科治療の研鑽を積んだ歯科医師のもとで、説明と同意に基づいた信頼関係を持って治療を受けることでしょう。 
 いずれにしても、”デーモン・システム”は治療法として、いくつかのプラス面があり、また特にマイナス面はないにしても、治療期間の大幅な短縮といった点に関しては未だ医学的には明らかになっていません。今後、この点に関する医学的な研究と明確は根拠が出されることを期待したいと思います。