気になる矯正歯科治療、いったいどこで受ければいいの?
■歯並びが気になるのに、そのままでいるのはなぜ?
「整った顔だちと素敵な笑顔、あなたはどちらに魅力を感じますか?」
こんな質問をされたら、あなたは何と答えますか。
2010年7月に全国の10代~50代の男女計1,000人を対象に実施された「全国1,000人意識調査」(日本臨床矯正歯科医会)では、7割近くの人が「異性の魅力は整った顔だちより笑顔にある」と回答。また7割以上の人が、素敵な笑顔のポイントは「歯並び」にあり、歯並びの良し悪しで第一印象が左右されると答えています。
昔から「目は口ほどにものを言う」などと言いますが、この調査結果をみると、目に負けず劣らず自分を印象づけるのが口もと、のよう。そのことをさらに裏付けるように、同調査では6割以上の人が「自分の歯並びを気にする(したことがある)」と答えています。 …にもかかわらず「歯並びについて歯科医に相談したことがある」人は、わずか2割強どまり! いったい、なぜでしょう?
■知っているようで知られていない、矯正歯科治療
考えられる理由の一つが、矯正歯科治療への理解不足です。
グラフを見てもわかるように、「歯ぐきが健康なら、何歳からでも治療できる」ことや「健康保険が利く場合がある」ことなどを知らない人が、まだまだ多いのが現状なのです。
実際には、子どもも大人も、力を加え続けると歯が動く原理に変わりはありません。そのため、歯ぐきや歯を支える歯槽骨(しそうこつ)という骨などに問題がなければ、年齢を問わずに矯正歯科治療を受けることができます。
また、基本的に健康保険が利かない矯正歯科治療ですが、医療費控除の対象にはなります。そして、あごの外科手術を伴う治療(外科矯正治療)や厚生労働省が定める(主に先天性)疾患に起因する不正咬合の改善などには、都道府県から指定を受けている医療機関で治療すると健康保険が適用されます。
こうした”基本”を頭に入れた上で、今回はよりよい矯正歯科治療が受けられるクリニック選びのポイントについて取材しました。
矯正歯科治療についてくわしく知るなら、この本がおすすめ!
『こどもの矯正歯科治療がよくわかる!キッズの歯ならび*すくすくスクール』
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『中学・高校生のためのキレイな歯並びになりたいBOOK』
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★次のページでは、信頼できる治療先の見極めポイント〈検査・診断編〉をご紹介!
気になる矯正歯科治療、いったいどこで受ければいいの?
現在、日本には約6万軒の歯科医院があるといわれていますが、このうち矯正歯科の看板を出しているクリニックは約2万軒。しかし、その中身は千差万別。なかには矯正歯科の看板を出していても、矯正歯科の専門的トレーニングを受けていないドクターもいるといわれています。
誰でも、せっかく治療を受けるなら、技術の高い信頼できる先生のもとで受けたいもの。数あるクリニックから、そんなクリニックを見分けるポイントについて、日本臨床矯正歯科医会*1(以下、矯正歯科医会)の会長、富永雪穂さんにお話をうかがいました。
「質の高い矯正歯科治療が受けられるかどうかを見分けるポイントは、いくつかあります。その中でも、治療前に『セファロ』によるレントゲン検査を行い、また検査結果の説明時に、セファロを用いた診断と治療方針の説明があるかどうかを確認してはいかがでしょうか? セファロというのは、頭部X線規格写真(セファログラム)のことで、矯正歯科治療の診断に不可欠な機器です。矯正歯科治療を専門に行う医院では必ずセファロ撮影と診断を行いますから、セファロのないクリニックでの治療は、慎重にされた方が無難だと言えます」と話す富永さん。
繊細な作業を求められる矯正歯科治療では、口腔内の検査にレントゲンは必須。なかでも、セファロという機器を使うことで、上下のあごの大きさやそのズレ、あごや唇の形態、歯の傾斜、口もとのバランスなどの状態を正確に知ることができるのだそうです。
「矯正歯科が一般歯科と違うのは、セファロという機器を使って、顔面と頭部のX線写真を撮影して分析し、診断を下すことにあります。また、治療前・治療中・治療終了後と、同じ規格で撮影したセファロの画像があれば、どのように歯が動いたか、顎骨がどんなふうに変化したかが比較できます。これも矯正歯科治療を専門に手がける医院なら、行っていること。私が知る限り、たとえ経験豊富な矯正歯科医であっても、セファロの検査をしないで治療を行うことはないと思います。セファロがなくても矯正歯科治療はできますが、確実に治療の質が下がってしまいますから」
セファロとは、写真のような機器(左)を使った検査。しっかりと覚えておきたいものです。
左:セファロ。 右:セファロで撮影された頭部のX線写真。
*1 矯正歯科医会とは、日本で唯一40年の活動実績をもつ矯正歯科専従開業医の団体のこと。2013年7月現在、450名の矯正歯科医が所属しています。
セファロの撮影とともに大切なのが、各種資料の採取。要するに、口の中・顔面・パノラマX線などの写真撮影と石こう模型の採取だと富永さんは話します。
「初診の次に行うのが、精密検査です。写真撮影や石こう模型などの資料は、そのときに採取するものです。採取する目的は、治療前の患者さんの状態を記録して、治療方針を決めるため。矯正を専門に行う歯科医院では、採取した資料を後日、患者さんにお見せしながら、診断や治療方針の説明を行います。この説明で重要なのは、患者さんにきちんと納得していただくこと。その意味で、資料を見せて説明しないクリニックはおすすめできませんね」
また、これらの資料の保管も大切です。矯正歯科治療は一般的に2~3年かかるので、その間に治療経過の確認をしたり、患者さんが転居などによって受診先を変更したりする際にも、転居先の矯正歯科医にキチンと治療開始前の資料を渡してもらわなければなりません。そのため、検査や診断の資料をきちんと保管していることが、とても重要になるのです。
そして、3つめのポイントは、その歯科医院の対応可能症例。
「そのクリニックが、部分的な矯正歯科治療や難易度が高い外科矯正治療(注:あごがゆがんでいる場合などに行われる外科手術を併用した矯正歯科治療のこと)に対応しているか*2、口唇(こうしん)・口蓋裂(こうがいれつ)の治療を行っているか*3なども、シビアにチェックしてください。これらの症例に対応しているクリニックは、平均的で難易度が高くない矯正歯科治療をしているところより、高い技術力と豊富な経験を持っているといえます」
対応可能症例については、各歯科医院のホームページなどでも調べられるので、事前にチェックしてみるとよいでしょう。
*2 顎口腔機能診断施設。 *3 障害者自立支援指定医療機関。
★次のページでは、信頼できる治療先の見極めポイント〈治療費・医療態勢編〉をご紹介!
気になる矯正歯科治療、いったいどこで受ければいいの?
「また、矯正歯科を専門とする歯科衛生士さんがいるかどうか、先生が常勤かどうかなど、医療態勢もチェックすべき点です。スタッフの熟練度などは患者さんからはわかりづらいと思いますが、矯正歯科を専門にしている歯科医院なら歯科衛生士も矯正歯科治療に熟練していて、治療中の食事や歯が動くときの痛みなどにもきちんとしたアドバイスとケアができますから」
と同時に、矯正歯科を担当する歯科医が常勤であることも、とても大切だと話す富永さん。
「なぜなら、矯正歯科治療中は装置が外れたり、ワイヤーが歯肉に当たって痛くなったりすることもあるため、そんなとき、毎月一日だけ「矯正歯科の日」に診療する非常勤の矯正歯科医では、緊急時の対応が十分とはいえないからです。やはり常勤の先生と専門のスタッフがいて、緊急時の対応がしっかりできるクリニックを選ぶほうがよいと思いますね」
数年におよぶ治療期間中、誰もが一度は装置がとれたり、痛みが出たり、あるいは急用ができて予約した通院日を変更したり、といった事態が発生するもの。そのとき、ベテランのスタッフや常勤の先生がいないと適切な対応がすぐにとれず、結果として治療期間が延びることにもなりかねません。その点で、医療態勢が万全かどうかは大きなポイントといえるのです。
「これまでお話しした以外にも、治療前に治療費がきちんと数字と文書で提示されているか、治療内容についてくわしく書かれた治療同意書の説明があるか、なども見極める上でのポイントです」
治療開始前に矯正歯科治療費が明示されていれば、治療が進むごとに予想外の費用が加算されることを避けることができます。そのため、治療開始前の治療費の説明時に、治療期間が延長した時、治療費を追加で支払う必要があるのかをきちんと聞き、それが同意書に記載されているのかを確認しておくのがおすすめだといいます。 また、治療同意書にサインして歯科医院と患者さんが双方に保管しておくことも、重要なこと。治療中、万一何かのトラブルが起こった場合には、この同意書の内容が問われるためです。
「これらも矯正専門のクリニックなら当然行っていること。きちんとした提示がないなら、治療を始める前にセカンドオピニオンとして別のクリニックを訪ねるのがよいでしょう」
そして最後の見極めポイントは、矯正歯科治療を専門に行っているかどうか。
「矯正歯科治療を専門に行う歯科医は、矯正歯科医であるという自負を持っています。実際、矯正歯科治療に特化した医院では、年間平均60~150名の治療を手がけているので、さまざまな症例に対応できるといえます。この経験値の高さは、かなり大きなポイントになるのではないでしょうか」
年間平均60~150名というのは、矯正も手がける一般歯科が行う治療数の、約6倍にもあたる数字。患者さん一人ひとりに適した質の高い治療は、こうした豊富な臨床経験から生まれるものなのでしょう。
富永さんは続けます。
「矯正歯科治療とは、その人自身の歯をよりよい状態に整えることで、患者さん一人ひとりの人生の質を高めていく治療です。私たち専門開業医は、そのために知識を広げ、深めることに日々専念しています。そして、その専門領域に対して最後まで責任を持つという、社会的な責任を担っているのだと思っています」
咬み合わせや歯並びの状態は、一人ひとりで違うもの。その違いをみて、その人の状態に応じたふさわしい治療を行うことができるのが、経験豊富な矯正歯科医。質の高い治療とは、矯正歯科治療に特化して、日々技術を磨き、高めている専門クリニックを置いてほかにはなさそうです。 自分の歯並びが気になっている人、どの歯科医院に行けばいいのかわからないという人は、まずは矯正歯科を専門に行うクリニックに相談してみては?
☑ 矯正歯科専用レントゲン「セファロ」による分析診断を行っている
☑ 口の中の写真や顔の写真、また歯型をつくり、それに基づいた診断の説明がある
☑ 顎変形症(がくへんけいしょう)や口唇(こうしん)・口蓋裂(こうがいれつ)の患者さんの
治療を行っているか、あるいは適切な対応ができる
☑ 治療開始前に治療費用が明示されている
☑ 治療同意書がある
☑ 矯正歯科治療専門の歯科医が常勤している
☑ 矯正歯科治療専門の歯科衛生士がいる
☑ 矯正歯科治療に特化したクリニックである
気になる矯正歯科治療、いったいどこで受ければいいの?
5年前、姉妹でほぼ同時期に矯正歯科治療を始めたというM美さんとE子さん。現在、二人とも矯正装置(マルチブラケット装置)をつけての治療を終え、整った咬み合わせを保つためのリテーナー(治療後の歯並びを保つ保定装置)期間中。 矯正専門クリニックでの治療を改めて振り返り、当時感じたことなどをお話しいただきました。
■信頼できる一般歯科医からの紹介で、矯正歯科専門クリニックへ
――お二人が矯正歯科治療を受けようと思った理由は何ですか?
M美さん:以前はそうでもなかったのに、二人とも大学の頃に親知らずが生えてきて、それから歯列が少しずつ乱れてきたんです。高校の頃まで自分の歯並びが悪いなんて思ったこともなかったし、まわりにも矯正をしている人がいなかったので、大人になってから矯正治療を受けるなんて思ってもいなかったんですが、だんだん乱れてくる自分の歯並びをなんとかしたいと思うようになりました。
E子さん:私も同じです。徐々に歯並びがガタガタしてきて、これは一体なにが原因なんだろうと。結局、地元の一般歯科でレントゲンを撮ってもらって初めて、親知らずが歯を押しているせいだとわかり、治せるものなら治したいと思いました。
M美さん:ただ私の場合、治療して歯並びをキレイにしたい反面、装置をつけるのが恥ずかしいという気持ちもあって…。それで、一般歯科の先生に相談してみたんです。そしたら先生が「人はそんなに見てないものよ」って。その言葉に勇気をもらって、矯正治療に踏み切りました。
治療前の歯並び。二人とも、上下の前歯に同じようなガタつきがあった。
――矯正歯科はどうやって探したんですか?
M美さん:一般歯科からの紹介です。「絶対に専門のところがいい」とのことで、矯正歯科専門のクリニックを2軒紹介してもらいました。信頼できる一般歯科からの紹介だったので、その時点で安心感がありましたね。結局、最初に訪ねたクリニックの雰囲気がよく、先生やスタッフの対応がきちんとしていたので、そこで治療することにしたんです。
――矯正歯科専門のクリニックに、どんな印象を持ちましたか?
M美さん:どんなふうに治療していくのか、期間はどれくらいかなど、治療する前の説明が丁寧で、わかりやすかったですね。それと先生のお人柄もあるんでしょうが、そのクリニックで取り組んでいることや矯正歯科としての使命みたいなものを外に開示していこうという意識が伝わってきたのも好印象でした。
E子さん:先生もスタッフも矯正治療にしっかり取り組んでいて熱心。その分、治療をサボると先生に怒られそうだなって思いましたけど(笑)。
■先生の説明+冊子などの情報提供で、歯並びへの意識が高まった
――治療を始める前、不安に感じていたことなどありましたか?
E子さん:私は姉の数カ月後から治療を始めたので、始める前に姉からいろいろ話を聞いていたこともあって、治療に関して特に不安はありませんでした。しいて言えば、治療前に抜歯するのが最初は少し怖かったですね。でも、先生から「抜歯をしないと歯がキレイに並ばない」ことや、「抜歯をしてあごのスペースに合わせて咬み合わせを整えたほうが自分の歯が長持ちする」ことなどを聞いて、結果的には納得できました。
M美さん:私も大きな不安はありませんでしたね。ただ、最初に「リテーナーを使う期間を含めると、治療期間はトータル5年くらい」と言われたのは長いなーって感じました(笑)。でも、それも最初に2年半って言われて結果的に長くなるよりはいいし、矯正装置を外した後のリテーナーの期間って治療した歯並びを安定させるために大事なので、そこも治療期間に含めて伝えてくれたのはよかったと、今は思えますね。最初に2年半って言われると、ついリテーナーをサボっちゃうかもしれませんから。
矯正装置をつけて、動的治療スタート!まずは、抜歯した第1小臼歯の隙間を利用して前歯の重なりをとっていく。
――矯正歯科専門のクリニックで治療をして、よかったと思うことは?
M美さん:いろいろありますが、矯正治療に関するいろんな情報をいただけたのは専門クリニックならではだと思います。例えば、矯正治療をした著名人の体験談などを載せた冊子を、治療前にクリニックでもらったんです。その中にあった当時ヤクルトの青木選手の話が印象に残っていますね。青木選手は、矯正治療をしたことでパフォーマンスが上がってよく打てるようになったそうなんです。治療前、期間の長さが気になっていたときにその記事を読んだことで、「私も前向きな気持ちで取り組んでみよう」って思えました。
あと、80歳で20本の歯を保とうという8020運動のことも矯正治療を通して知りましたし、先生からの説明だけじゃなくて、いろんな形で咬み合わせの大切さを理解して、自分の意識を変えていけたのはよかったと思っています。
歯がまっすぐに並んだら、今度は犬歯を後ろ側に動かしていく。
――治療をして、歯に対する意識はどんなふうに変わりましたか?
E子さん:歯磨きも楽にできて、ご飯も食べやすく、見た目も整っている今の状態をこれからも維持したいですね。ですから今は、食事と歯磨きのとき以外、リテーナーはきちんとつけていますよ。楽して手に入れた歯並びなら、少し変になってもまた治してもらえればいいやって安易に思うかもしれませんけど、時間と手間をかけて手に入れたものなので、ずっと大切にしたいという気持ちが生まれるんだと思います。
特に、私は歯磨きのしかたやアイテムにこだわるようになりました。以前は歯の表面だけを磨けばいいと思っていたんですが、今はデンタルフロスなども使って歯間の汚れをとったりもしています。これは治療前には思いもしなかったことですね。歯ブラシもヘッドの小さいものを買って、毎月取り替えるようになりました。そうやってお手入れをすると歯もキレイになるし、気持ちもいいですね。
より安定した咬み合わせにするために、整った歯列を微調整。ここまできたら動的治療終了まで、あと少し!
――これから矯正をする人に何かアドバイスをするとしたら?
M美さん:矯正装置をつけていた時期、何人かの人に「矯正してるんですね」って話しかけられました。歯並びを治したいと思っている人はけっこう多いと思います。これから始める人には、やっぱり矯正歯科専門のクリニックで治療することをおすすめしたいですね。もし、治療に踏ん切りがつかない場合は、相談という形でまずクリニックに行ってみるといいと思います。実際、足を運ぶことでそこの雰囲気がわかりますから。通いやすい場所にあって、先生やスタッフの方の動きに気持ちがこもっているようなところが、私のおすすめです。
E子さん:治療期間の短さや費用の安さなど、いいところだけを話す先生は要注意かもしれません(笑)。私たち患者は矯正について知識のない中、治療を始めるので、期間や通院頻度、料金などについて、注意点も含めて、こちらが納得できるように丁寧に説明してくれるクリニックに出合ってほしいと思います。
動的治療が終わると、歯並びはこんなにすっきり。その歯並びを保つために、リテーナー(写真右)は必須。
気になる矯正歯科治療、いったいどこで受ければいいの?
インタビューに応じてくれたのは、長年、気になっていた歯並びを治すため、矯正歯科専門のクリニックで 30代で治療を受けたという引田さん。
治療を終えて数年経つ今だからこそのホンネトークを交えながら、よりよい治療を受けるためのクリニックの選び方についてお話しいただきました。
■治療例をたくさん見せて説明してもらえたことで、踏ん切りがついた
――矯正歯科治療を受けようと思った理由は何ですか?
実は、高校を卒業する頃から自分の歯並びが気になっていました。というのも、前歯がデコボコで、特に1本の歯が内側に向かって生えていたため、噛み合わせると上の歯が下の歯にぶつかっていたので。それに奥歯にも内側に倒れている歯があって、食べものがつまりやすいのも気持ち悪く感じていました。
引田さんの治療開始直後の歯並び。噛み合わせるとき、下の歯にあたるので、あごをずらすようにしなければならなかった。
――高校のときから気になっていたのに、実際に治療を始めたのはかなり後からですね。
そうなんです(笑)。一般歯科で矯正治療もしているクリニックに相談に行って、検査まで受けたことはあるのですが、なかなか決心がつかなくて。相談したクリニックの先生は話しやすい感じで好印象だったんですが、検査結果の説明が短くて、歯を抜かずに短期間で治すことばかり強調されている気がして…。本当にそれで自分の歯のデコボコが解消されるのかなと疑問に思ってしまったんです。それに、そのクリニックは月に一度しか矯正歯科専門の先生がいらっしゃらないので、仕事をしていた私にとっては通うのがちょっと難しいかなと思ったことも、二の足を踏んでしまった理由です。
――では、治療先はどんなふうに探したんですか?
その後、私の友人が矯正を始めたことで、やっぱり私も治療を受けたくなって、その人が通っていたクリニックに相談に行ったんです。そこは矯正歯科だけを専門にしているところで、以前行った一般歯科とはいろんな意味で違いましたね。
――どんなふうに違いましたか?
はじめて相談で行ったとき、パソコンを使っていろいろな治療例を見せてくれたり、実際に先生が口の中を見て大まかな治療の流れや費用について説明をしてくれたり。矯正治療は、歯のデコボコを装置で治したら終わりではなく、その後も歯が戻らないようにリテーナーという装置を何年か使う必要があることも、このときはじめて知りました。
次の精密検査では、写真やレントゲンを何枚か撮りました。もちろん、歯型も。あごの関節の動きや筋肉の動き、咬み合わせのチェックなども時間をかけて行いましたね。その上で、「治療をするかどうかは後日の検査結果を聞いてから決めればいい」と先生に言われました。今振り返っても、全体的に説明が明確で、私に合わせた治療を考えてくれそうな印象を受けたので、ここなら安心かなと、思い切って治療することにしたんです。
歯を動かした後、上下の歯列にはめて動いた位置で歯を保定するリテーナーという装置。いくつかの種類がある。
■メリットとデメリット、両方の説明を受けたことで納得できた
――引田さんは、治療前に抜歯*はされたんですか?
いえ、しませんでした。私自身、抜歯しなくて済むならそのほうがいいと思っていたのですが、非抜歯で治療する場合、歯がきれいに収まるスペースをつくるために、奥歯を後ろに動かしたり、歯列全体を広げる治療をしなければならないんです。そのとき、広げすぎると咬み合わせの安定性に影響するらしいんですが、私の場合は、少し広げれば歯列が整うということで、非抜歯が選択されたようです。
その説明のときも、先生は「抜歯をしたらこうなる、抜歯しなかったらこうなる」と、両方のメリットとデメリットを話してくれたので納得できましたね。ちなみに、抜歯して前歯が引っ込むと老けてみえることもあるという話も先生から聞きました。歯を並べるだけじゃなくて、いろんな側面から考えてくれるんだなと思いましたね。
*矯正歯科治療では、よく噛める状態をつくるために、必要に応じて抜歯を行うことがあります。
――今、治療期間を振り返って思い出すことは?
歯が動くときの痛みや、食事の後に食べ物がワイヤーに絡まるといったことは当然ありましたけど、大きなトラブルは特になく、順調だったと思います。
何より、あごが楽な位置で噛めるようになったのがうれしかったですね。実際治療期間は数年かかるので、その間に装置が頬に当たって痛かったり、硬いものを食べたときに装置が外れてしまったりしたこともありましたが、すぐに応急処置をしてくれたので助かりました。また、スタッフの方には、難しい矯正中の歯の磨き方を指導していただいたことで、歯磨きがかなり上達したと思いますよ。快く対応してくださった先生やスタッフの方に感謝しています。
――最後に、これから矯正治療を考えている人にアドバイスを!
私は治療を開始するのに時間がかかりましたが、もし思いとどまっている人がいたら、思い切って行動に移してほしいですね。その際には、ぜひ納得できるクリニック選びをしてほしいと思います。治療を終えた今、言えるのは、矯正治療を専門にされている先生なら、豊富な引き出しの中から自分に合った治療方法を提示してもらえると思うので、そういうクリニックを選んでいただきたい、ということです。あとは、メリットだけでなく、ある程度の治療期間が必要なことや痛みがあることなど、治療のデメリットもきちんと伝えてくれるところなら信頼できると思います。
それと、治療が始まると月に一度のペースで通院することになるので、先生の人柄も大事です。相談という形で矯正歯科に行っても、迷ったらその場で治療するかどうかを決めなくてもいいと思うので、必要に応じてセカンドオピニオンも取り入れながら、納得のいくところで治療するのがいいと思います。
治療後、キレイになった歯並び。がたつきがとれて、すっきり。咬み合わせも安定した。