ご存じですか?10人に1人の子どもに”足りない歯”があるってこと
■本来あるべき永久歯のない子が増えている
3歳くらいで完成するといわれる乳歯の歯並び。乳歯がすべて生えそろうと、口の中には20本の歯が並ぶことになります。それが6歳から12歳くらいにかけてあごの成長とともに永久歯へと生えかわり、親知らずを除くと28本の歯並びに。永久歯に生えかわるスピードには個人差があるため、人より1~2年遅くても早くても心配無用ですが、乳歯がいつまでも残っている場合は注意が必要です。
●歯の並び方と名称
というのも乳歯は、あごの骨の中で育ってくる永久歯の歯胚(しはい/永久歯の芽)に押されるかたちで歯の根が吸収されて短くなり、やがて抜け落ちるため。つまり、いつまでも乳歯が残っているということは、乳歯の下に本来あるべき永久歯がない可能性があるわけです。このように、永久歯が生まれながらにない場合を「先天性欠如」といいます。
ヨーロッパ矯正歯科学会が2006年に調べたところ、この先天性欠如は近年増加傾向にあるという結果が出ています。
■前から2番目・5番目の永久歯が足りないケースが多い
では、どのくらいの子どもに先天性欠如があるのでしょうか。
日本小児歯科学会が2007~2008年にかけて行った全国調査「永久歯先天欠如の発生頻度に関する調査研究」をみると、歯科を受診した7歳以上の子ども1万5,544人(男子7,502名、女子8,042名)のうち、乳歯の先天性欠如があったのは75人(0.5%)、永久歯の先天性欠如があったのは1,568人(10.1%)となっています。
また、永久歯の先天性欠如は男子(9.1%)より女子(11.0%)がわずかに多く、上あごだけに欠如がある場合は2.5%、下あごだけにある場合は5.7%、上下のあご両方にある場合は1.9%。歯の種類別では、前から5番目(第2小臼歯)と前から2番目(側切歯)の欠如が多いという結果が出ています。
■放置すると歯並びが崩れる要因に
永久歯が先天的に欠如していると、大人になっても永久歯が生えるべき場所に乳歯が残ったままになります。
乳歯が残っても、咬み合わせとして機能する分には問題ありませんが、乳歯は永久歯よりエナメル質や象牙質が薄く、歯の根も短いため、残念ながらあまり長持ちはせず、二十歳前後で抜けてしまうことも少なくありません。
そして、抜けた後そのままにしていると、周辺の歯が動いたり倒れこんだりして、歯並びや咬み合わせを崩す要因となってしまうのです。それだけでなく、あごの成長に悪影響を与えたり、顎関節症などにつながったりする可能性も。また、前歯の隙間や乳歯の見た目を気にして社会生活に消極的になるなど、心理面での影響も見逃せません。
先天性欠如歯の本数は、1~2本のことが多いものの、まれに10本以上欠如する場合もあります。そうなる原因として遺伝や全身疾患、薬の副作用などが影響しているのではないかと考えられていますが、現状でははっきり解明されていません。
さて、あなたのお子さんの歯は大丈夫でしょうか? この機会に、ぜひチェックしてみましょう。
★次のページでは、先天性欠如の有無を見分ける方法と、その後の対処法などについてご紹介!
ご存じですか?10人に1人の子どもに”足りない歯”があるってこと
■まずは7歳までにパノラマエックス線写真で確認を
国内最大の矯正歯科専門開業医の団体である公益社団法人 日本臨床矯正歯科医会(以下、矯正歯科医会)では、永久歯の先天性欠如の有無を確認するための方法として、7歳までに歯科医院(一般歯科、矯正歯科)を受診し、あごの骨全体を撮影できるパノラマエックス線写真(口の中全体を1枚のエックス線写真で撮影する方法)で確認するよう提案しています。
一般的に、子どもに対するパノラマエックス線写真は健康保険の対象外となることが多く、その場合、撮影するには3,000~5,000円ほど費用がかかりますが、これを撮ることで生えかわりが順調に進んでいるか、あごの骨の中に異常がないかなど、口の中全体の歯や骨の状態がわかり、お子さんの歯の生えかわりを予測・観察しながら歯を健康に保つのに役立ちます。
もし、先天性欠如が見つかったら、歯科医院で治療に関する長期的な治療計画(対処法)を立ててもらいましょう。
考えられる計画としては、将来、矯正歯科治療で永久歯のない部分のスペースを閉じてしまう、乳歯をできるだけ長く使った後にブリッジやインプラントで永久歯のない部分を補う、あるいは両方をミックスする場合もあるでしょう。
また、治療計画と同時に、治療を行う最適な時期やその時期までの注意事項も、歯科の先生から教えてもらうことをおすすめします。
そのうえで、残っている乳歯を永久歯の代わりの歯として大切に使いながら、歯並びや咬み合わせに問題が生じないように管理を続けることが大切です。
残っている乳歯をできるだけ長持ちさせる
永久歯と比べて乳歯は、いったんむし歯になると進行しやすく、また歯の根も短いため、できるだけ長持ちさせるためには歯科医院で定期的にケアを受けることが大切です。
矯正歯科治療を行い、咬み合わせを安定させる
生えるべき永久歯がすべて生えたら、矯正歯科治療を受けて歯と歯の間のスペースを閉じ、よくかめる安定した咬み合わせをつくります。
また、残った乳歯を抜いて、そのスペースを矯正歯科治療で閉じてしまうこともあります。
矯正歯科治療+補綴歯科治療で咬み合わせを安定させる
乳歯がダメになったら、矯正歯科治療や補綴歯科治療(ほてつ/歯の代わりに人工の歯をつくって入れる治療)などを行い、咬み合わせを安定させることもできます。
※対処方法は年齢や歯の状態によって変わります。
■6本以上の先天性欠如なら、矯正歯科治療が保険適用に
矯正歯科治療とは、歯の位置やあごの骨を、ある程度の時間かけてゆっくりと変化させ、乱ぐい歯や受け口、上顎前突といった問題のある歯並びを治し、よくかめる、安定した咬み合わせをつくるものです。
この治療は一般的に自費診療ですが、実は、厚生労働省が定めた特定の症状に限って健康保険が適用されます。従来、口唇口蓋裂などの先天性異常と顎変形症のみが健康保険適用の対象でしたが、2年前の2013年度から、6本以上の先天性欠如歯がある場合、「指定自立支援医療機関(育成・更生医療)」の指定を受けている矯正歯科診療所あるいは病院での治療に限って、健康保険が適用されるようになりました。
6本以上の先天性欠如が健康保険の適用になったことで、これまで費用が高くて治療できずにいた人にとって、矯正歯科治療がぐっと身近になったわけです。
該当する診療所は、以下より探すことができます。
★矯正歯科を探すならここをチェック!
■先天性欠如の治療例を見てみよう
では、実際に先天性欠如を矯正歯科治療で治したケースを見てみましょう。
下の左5番(第2小臼歯)の永久歯1本が先天性欠如だった11歳のAさん(女性)。FKOという装置を併用して、下の左6番(第1大臼歯)のみを移動させ、空いたスペースを閉じていきました。
上の右2番(側切歯)1本が先天性欠如だった12歳のBさん(男性)。矯正歯科治療で将来の補綴歯科治療のためのスペースを確保し、歯列を整えた後に仮歯を装着。その後、あごの骨や歯ぐきが安定した24歳でインプラントを埋入して咬み合わせを完成させました。
どちらの方法にも一長一短があり、どの治療法が向くかは一概にはいえませんが、先天性欠如は、あごが成長する幼児期から適切にチェックしていくことがとても大切。ぜひ、7~9歳を目安に歯科医院を訪ね、生えかわりが順調かどうかをパノラマエックス線写真で確認してもらいましょう。
★次のページからは、実際に治療中の方にインタビュー!
ご存じですか?10人に1人の子どもに”足りない歯”があるってこと
- 永久歯が6本足りない先天性欠如で、6歳の頃から矯正歯科に通っているという川田さん。ブレースが取れた今も、年に3回は矯正歯科で歯のチェックを受けるという彼女に、これまでの治療と歯並びの大切さについてうかがいました。
矯正歯科で先天性欠如が発覚
もともと私の母が、大人になってから矯正治療を受けたんです。それで私の乳歯の生え方がおかしいことが気になったようで、小学校にあがってすぐに矯正歯科に連れて行かれました。エックス線写真で調べてもらったところ、上の左側1番(中切歯)と下の左側3番(犬歯)、そして上下の両側5番(第2小臼歯)の永久歯、計6本の永久歯がない状態でした。それがわかってからは3ヵ月に一度くらいのペースで矯正歯科に通って、歯の生えかわりの状態などをチェックしてもらっていましたね。
よく歯医者さんに行くのを怖がる人がいますけど、私の場合は、矯正歯科で痛い思いをすることはなかったので、歯科医院=コワイという感覚がまったくなくて(笑)。いつも習い事に行くような気分で通っていました。
二十歳まで乳歯を残すのが目標
実際に、矯正治療(第1期)が始まったのは、小学3年になってから。最初は、内側に引っ込んだ歯を表に出すために「リンガルアーチ」という装置を歯の裏側につけました。慣れるまでは痛みも少し気になりましたが、そういうときは先生がやさしく声をかけてくださったり、矯正治療の経験者である母が、やわらかい食事を用意してくれたのでなんとか乗り切ることができました。
当時は永久歯が生え揃わないせいで歯と歯の間に隙間があって、むし歯もちょっとありました。でも、矯正治療を始めて、しっかり歯を磨くようになってからは、むし歯はゼロ。矯正歯科の先生から「今残っている乳歯を二十歳まで残そうね」とよくいわれていたので、自分でも自然に乳歯を大事にしなきゃ、という気持ちになったんだと思います。
目標達成した今の思い
第1期の治療が終わったのは中学2年のときです。その後、14歳から上の左側1番と下の左側3番の乳歯を入れた状態で第2期の矯正治療を始めて、5年前にそれも終わりました。今は夜寝るときにだけリテーナー(動かした歯を保つ装置)を使っています。
2本の乳歯は、21歳になった今も、まだ残っているんですよ。この2本の乳歯をできるだけ長持ちさせたいですね。乳歯は永久歯より小さくて弱いので、歯磨きするときも、できるだけやさしく、でもきちんと磨くようにしています。食事をするときも、乳歯に負担がかからないように気をつけていますよ。
将来、乳歯がいよいよダメになりそうになったら、矯正歯科の先生と相談して、そのときの自分にいちばんいい治療法を選ぶつもりです。私の場合、健康保険の適用前から治療していたので、これまでにかかった費用は大きいと思いますが、その分、これからも自分の歯に意識を向け、大切にしていきたいと思っています。
余談ですが、大学を卒業したら小学校の先生になるつもりです。目標は、熱くて、子どもに頼られる先生(笑)。仕事を通して、子どもに歯の健康について伝えていきたいと思っています。
●現在の歯並び
ご存じですか?10人に1人の子どもに”足りない歯”があるってこと
- 患者さんの二人目は、永久歯が11本足りなかったというS.Nさん。6本以上の先天性欠損が健康保険の適用対象となった2年前から矯正歯科治療を始め、現在もまだ治療中です。治療に至る経緯や現状についてうかがいました。
健康保険の適用が治療のきっかけに
生まれつき永久歯が11本少ないことに気づいたのは、10歳くらいです。かかりつけの一般歯科で、むし歯治療のためにエックス線写真を撮って判明しました。当時はまだ子どもだったので、「治療は二十歳になってからにしよう」と先生からいわれていましたね。
そして大学生になってから、その先生の紹介で、ある大学病院に行ったんです。そこでは「抜歯してインプラントを入れてはどうか」という提案を受けたんですが、入れる数が多いので何百万も費用がかかるし、どうしようかなと……。
かかりつけ医に相談すると、今度は矯正歯科専門の診療所を紹介していただきました。診療所に行って話を聞いて、「治すなら矯正治療で」と思ったんですが、当時はまだ6本以上の先天性欠如が保険適用になっていなかったこともあって、やはり費用がネックで、なかなか踏み込めずにいたんです。
そんなあるとき、矯正歯科の先生から連絡があって、6歯以上の先天性欠如に健康保険が適用になったことを知りました。今から2年前、ちょうど僕が二十歳のときです。これでようやく治療できる! と、すごくうれしかったですね。
将来的なインプラントも視野に入れて
実は、矯正治療を始めるまで9本の乳歯がほぼ残っていたんです。これは矯正歯科の先生にも驚かれました。10歳で永久歯が足りないのがわかってから、月に一度はかかりつけの歯科医のもとでクリーニングやフッ素塗布を受けたせいかも知れません。
矯正治療で咬み合わせを整えるために、僕の場合は乳歯を4本抜きましたが、今も5本の乳歯が口の中にあります。将来、これらの乳歯がダメになったら、そこにインプラントを入れようかなと今は思っています。
単に乳歯を抜いてインプラントにするのだと、本数も多く必要なので何百万もかかりますが、矯正治療をして歯列を揃えてからインプラントにするとより少ない本数で済みますし、安定した咬み合わせの中に入れるので、インプラントの持ちもよくなるんじゃないかと思っています。それに、僕の場合は矯正治療に保険が効くので、その後の補綴(ほてつ)治療に費用がかけられ、また選択肢が広がるのがありがたいですね。
●治療前と現在の歯並び
ゴールに向かう今の気持ち
今、矯正治療を始めて2年目で、終わるまでにはまだまだ時間がかかりそうです。治療後に、歯の隙間を埋める人工的な処置が必要なことを考えると、折り返し地点にも到達していないんでしょうね。ブレースがついていると、パスタや麺類を食べるとみごとにはさまるので、周囲を気にしなきゃいけない場では控えています。バジルも禁物ですね(笑)。
日々の歯磨きも大変ですが、少しずつ歯並びがよくなっていくのは、やっぱりうれしいことです。以前は前歯が出ていたので、大きな口を開けて笑えなかったんですが、治療中の今は笑えますし、始めてみると矯正治療って特別なことではないと思うようになりました。治療が終わったら、小学校の頃からやっているバスケを思いっきりやるつもりです!